断片_1 ページ9
『今回筆を取った理由として、「私」という存在を知ってほしかったというものがございます。普段より関わらせていただいた方々はお分かりでしょうが、どうも、私は言葉を軽んじることしか出来ず、口を開けば法螺が、虚構が、溢れてしまうのです。一時の気の迷いと言いますか、一言一言覚悟をもって話すといったことは致しませんので、ああなってしまうのですが、一方文章は、明確な意思のもとで進めていくものですので、法螺吹きの私にも最適でございます。どうか、この文を読んでいただきたい。これを読み、私の全てを知ってください。虚構に塗れた私ではございましたが、最期の最後に全てを知ってほしくなったのです。私の真意を知る者が一人もいない世界など、悲しくて仕方ありません。それはつまり、私という存在がいなかった。フィクションであったということと同義なのです。
健常者どもは、死に急ぐ愚かな病人について知り、ただただ笑っていてください。私は皆様が嘲りの大笑いをし机を叩き顔を真っ赤にして宴を、私が死んだことを祝う宴を開いている様を、ただただ見ております。
私の生まれは小さな漁村でした。交通の便も特別良いというわけではなく、外との交流も多くはない。都市部からも遠くの生活はほとんど村の内部で済ませるという、閉鎖的な文化を持っていました。娯楽にゲームや漫画などはなく、ただただ外で遊び海で泳ぐぐらいのことしか出来ませんでした。唯一と言って良い、村を出る機会は学校のみで、だからと言ってそこが遊び場として充実していたかと言えば、海で過ごした我々にとっては特に目を惹くようなものは無かったため、やはり広大な自然の中で閉鎖的な遊戯に没頭してしまって。
一緒に、遊んだ者がおります。ウシオユウという名で、漢字は確か潮に勇でした。または牛尾優だったのかも。分かりません。覚えていないのです。ただただ「ユウ」と呼び、遊んだことしか。ウシオという名字が合っているかもあやふやです。ツシオやウキト、その付近である気もしてきました。ただ、「ユウ」だけは、しっかりと覚えているのです。彼と話したきっかけは、そこにあります。私の名である「誘」をユウだと思い、話しかけてきたのです。そこから、私の全てが変わりました。』
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