Message in a bottle【叡智】 (ページ11)

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「じゃあまた別の海見に行ったらええじゃろう。海なんかどこにでもある」
　帰るのかと日芽は一歩進んだ。が、ヒラクの方は何だかんだ名残惜しいようで動かない。焼けるから帰ろ。もうちょっと。堤防の上で繰り返す。
「まあでも、次は三人がいいな」
「は？」
　帰り道。明らかに不機嫌になった日芽の声色に、ヒラクは涼し気に笑みで返した。その様子がやはり癇に障って、大股で彼を抜かしながら日芽は言った。
「海辺の図書館でも燃やされるんやったら叶うかもね」
「そういう意味で言ったんじゃないって分かってるだろ、意地悪ー」
「私がそういう話嫌いってことも分かっとるじゃろ、意地悪ー」
　ヒラクの言葉に対句で返す。でもさ、と言いながら彼も大股で彼女の横に並んだ。
「俺、絶対仲直りさせる自信あるし。この道もうすぐ十年のベテランだから」
「はいはい。そら楽しみで仕方ないわ」
　そうして二人は、どんよりと暗い海を背に足早に去っていった。ざぱん、と二人を招く波は足元にすら届かず、防波堤のコンクリートにぶつかり砕ける。
　その後、二人のどちらもこの海を訪れることはなかった。彼は他の海を知らずに死んだ。そして、海を知り切ったと思い込んでいる彼女にも、もはや海を訪れるべき理由はなかったのだった。

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