【文スト夢】007の失踪〜俺の失踪届けも出せ〜

囚人番号０４６３　１ ページ13

青年は、今にも動き出しそうなほど精巧なビスクドールのようだった。よく目を凝らして、胸が上下に動いていることを確認しなければ、それが人間だとは気が付かない。


髪をよく見ると乾ききっていないし、服もだいぶ乾いたようだが濡れているあとがある。そういえば先生は、彼を滝つぼで拾ったと話していたっけ。――ん？ ということは、先生は一度外に出ている？ 私たちに無断で？


「滝つぼ？！ 先生、滝つぼっていったいどこの」 私はあわてて叫んだ。

「ああ。京極夏彦を『事故死』させた、『滝霊王の滝』だ。あの辺りでもう一度確認したいことがあったからな」

「まだ京極について探していることがあるんですか？！ というかそれ以前に！ 彼を無線ごと拾ったって先生言ってましたよね！ 監視の目を盗んで、また勝手に外へ出たんですか？！」

これは。エージェント殺害容疑がかかった脱獄犯が目の前にいる、という状況以上にまずい。あの滝つぼに落ちて無傷であるという点も気になるけれど、一体どうやって監視の目をすり抜けたのか聞き出さなければ。


と私が息をのんだ瞬間、先生が人差し指を立てた。冷たい眼光が私と、眠っている青年の間を行き来する。なんのことかとみていれば。


囚人番号０４６３が目を覚ました。


ゆっくりとまぶたを開けると、彼はまず、自分が寝台に寝かされていることに気が付いた。


体を動かそうとしているが、念入りに縛られているから全く動かない。男が目だけを動かしてあたりを見渡すと、ようやく私と目が合った。――男の瞳が赤い。やはり、梨木香歩によく似ている。


私たちを視認しても、男の表情は陶器のように凍り付いている。人間性が感じられない、無表情の仮面をかぶっているかのようだった。私は反射的に銃口を囚人番号０４６３へと向けた。ついでに綾辻先生への鬱憤もこめて。


「抵抗は辞めろ！ 怪しい動きをすれば撃つ！」 ああ。全員ここで撃ったら解決しないかな。


それでも男の表情は、一切変わらない。自分が置かれた状況を理解しているにもかかわらず、赤い目を不気味に光らせるだけだった。……いや、よく見ると光っているのではなくて。涙で、潤んでいる？


「―――――びゃぁああァアアアア！！！！」


男は情けなく泣き叫んだ。それはもう、人形のような男の容姿からは想像もつかないほど、大きな叫び声だった。

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