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横浜中心街の一等地に屹立し、街を高く見渡すことの出来る場所。


マフィア本社ビルの最上階から、抗争など忘れてしまったかのように活況を繰り返す街を、鴎外は見下ろしていた。


「平和だねぇ」


誰となく呟いた言葉に、返事など無かった。


しかし気にする事なく、おおよそマフィアの長にしては気の抜けた様子で頬杖をついている。


―――かつて筆を入れた、『銀の託宣』を横目に見ながら。


「『その者、泰然自若なる所作にて紛々たる万事、破竹の如くせしむる也』、か……」


組織は、才能ある部下達を失った。同時に補って余りある利益も手中に収めた。


事のあらましは、爪先から頭のてっぺんにかけて折り込み済みだったのだ。


織田とミミックの長が拮抗し、組織そのものを瓦解に追い込む。


織田の命と引き換えに、特務課から異能開業許可証を受け取り、代償に太宰が失踪する。


事実上政府から非合法活動を認可された今の状況は、大金星と言っても良い。


そこまで思慮を巡らせたものの、心の内を渦巻く暗雲は空目を見せない。


―――この計画の代償は、それだけでは無かった。


忙しない足音が執務室へ近づくのを耳にすると、鴎外は【その時】が近付いている事をそっと覚悟した。


執務室の壁をえぐる弾創——足立一之が大暴れをした痕からは、未だ生々しい煙が上がっているように見えた。


「首領、報告致します。要件は二つほど」


黒服の一人が抑揚を殺した声で言った。


「幹部派閥――」


太宰、といいかけて男は言い直した。


「幹部派閥無所属、芥川龍之介が。作戦外の行動とり続けているとの報告があがりました」


資料から顔を上げた鴎外に、黒服は続ける。
 

「不必要にミミックの敗残兵の殲滅を繰り返しています」

「実に結構。それでこそ芥川君だ。好きに噛み付かせておきなさい」

「追求は、なさらないので?」


殲滅。太宰の目もなく、褒賞も何も与えられない戦いだというのに。そこまでする理由は何だね。と鴎外は苦く笑った。


 『友達だからですよ。では、失礼』


君たち師弟は良く似ている。それは言葉にならなかった。


「…いや、そのことには触れないでも良い。それより二つ目は」

「失礼いたしました。用件の二つ目は。つい三分前、」


資料を握る手がわずかに震え、汗が一筋うなじを通り抜けていく。


「Qの地下牢が。何者かに破壊されました」




「(君は、私が憎いかね?足立君。)」


鴎外は何も言わず、静かに微笑んだ。

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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時

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