不断の糸《参》 ページ48
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逆に言えば、上っ面の信頼だけで、モノを言っているに過ぎない。本人もそれを自覚した口調だ。
だが不思議と、どんな凄惨な事実を聞かせたところでこの信頼は失われないだろうと思わせる何かがある。
中也はそれを察すると、反論のために開いた口を閉ざした。 逆に、その気持ちのいいばかりに主観的で根拠のない演説に聴き入ってすらいた。
「奴のことだ。方法がいかに残虐であろうとも、裏切りを働いた理由など恐ろしく単純で、お人好しなものに違いありませぬ」
−−その“根拠のない信頼に”名前をつけるとするなら、誰でも聞いたことがあり、彼らのような無法者が言うには余りにも場違いなものだろう。
中也はそれを、糸と呼んでいた。
「千代助は、僕が探しに向かいましょう。マフィアに攻撃を加えているのは、恐らく太宰さんです。多少なりとも悪知恵がきく千代の力も、きっと必要になります」
芥川の態度は揺るがない。その糸によって背筋を伸ばし、まっすぐに中也と向かっていた。
「…そもそも、あの餓鬼を殺れって命令がきたらどうするつもりだ。 組織を裏切って、遺された手前の妹がどうなるかも知った上でやるっつってんだろうな」
「それでもやると僕が言えば、貴方はきっと銀を全力で護ろうとする。貴方はそういう方だ」
「…………は、」
このように続けられては、流石の中也も何も言えない。
「中也さんは、黒社会のものとは信じられぬほど【人間】らしくいらっしゃる」
当然 芥川の表情は真顔のままで、自分がどれだけ凄いことを言ったのかなど理解していない様子だった。中也にとって『人間らしい』という言葉は、世界中の誰よりも特別なものだ。
同時に中也は、どうして あの足立少年が芥川という男を懐に入れ込んだのか、心から納得した。
この男は相手の長所も短所も、よく見ている。
「………おや、夜が明けましたか」
マイペースな少年の声につられて外を見ると 窓の外からは 生まれたての太陽が、洗い立てのオレンジのように姿を現している。
陽の光が芥川の横顔を照らし、さわさわと光が部屋に満ちていく通り道になっていく。
そのとき、どうしてだか中也には、この太陽は芥川が呼んできたかのように思われたのだった。
中也は、去っていく芥川の後姿をいつまでも眺めていた。
右手に握っていた端末が、通信を受信して震える。
中也は取り出すと、それの電源を無言で落とした。
それから外へ向かい、芥川と同じ方向へ足を踏み出した。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時