徒花の散る頃《六》 ページ45
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「生憎、
銃の安全装置を戻し、中也は芥川の方をつかんで力強く立たせる。
「ましてや。銃撃体制を見るだけで弾の軌道がよめる奴が、俺のへっぽこ弾に当たると思うか?」
「……いえ。」
「そうだろ。当たる訳、ねえんだよ。ガキが。あんなに真正面から」
中也は、これまでに見たことがないほどの苦痛に歪んだ顔をしていた。芥川は静かに中也の一歩隣に立った。
「中也さん。貴方も探していたのですか。千代助を撃った人間を」
「まあな。考えてることは一緒ってこった。俺も手前も」
足立一之は、簡単に撃たれない。
―――無垢に見えた少年の手に、銃という武器は馴染んでいる。それが自明の理であることが、中也の胸を重くさせた。
「足立は、俺がマフィアに入る前から在籍してる古株だが。やつの殺しの技術は全部、外から学んできたもんだ。
……俺が教える前から、何から何まで、全部が熟達してた。拳銃の扱いも、刀も闘術も、生まれた頃から仕込まれてたみてぇに何でもこなしやがる。俺が教えたのは精々異能の使い方だけだ」
中也は帽子を深く被り、それから云った。
「……その力で、あいつは首領の命を狙った。どんな言い訳があっても許されることじゃねえよ。足立に下された処分に逆らうことも、首領への裏切りと同じ意味になる」
力強く芥川を睨み付け、殺気を隠さない。
「芥川。足立を追うな。過去を追うのはもう止せ」
中也の目には、過去が映っていた。
最早変えられないものに拘り命を懸けた、織田作之助。その後を追うように消えた、青年の太宰治。
彼らの間をつないでいたものが、純粋な糸であることを、中也は誰よりもわかっていた。
その見えない糸は、足立と芥川との間にもつながっている。だからこそ、中也は声を張り上げずにはいられなかった。
「足立は手前が思うような、単純で阿呆なガキじゃねえんだよ。理想を重ねるな。あいつは、ただの人殺しだ。手前が特別気にかけてやるほどの純情もない、ただの、ありふれたマフィアだ」
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時