優しい世界《弐》 ページ29
◆
僕が従事する任務は、裏切者の粛清が中心だ。
このときの任務もも例外なく「裏切り者の粛清」という命令のもと動いていた。
歩いているのは貧民街の下水道で、自分より先を歩く人間たちがいる。たった一人の裏切り者のために、ここまでの人員を裂くなど異例中の異例だ。
黒背広に身を覆い隠した男たちは、“いつにも増して”神妙な面持ちのまま無言で歩き続けている。
「気を抜くな」
そのとき、ただ一人、僕の歩調に合わせていた千代助は、僕に小声で言った。
「敵の異能は血を刃にする。いつどこでおそいかかってくるか、わかったもんでねぇ」
白衣を纏い、科学班の末席として作戦に参加していた千代助は、酷く冷静だった。
組織の金だけではなく、傘下組織の金まで横領し、高飛びしようとした男には敵が多すぎる。
すでに他の組織の暗殺屋に襲撃され、命を落としているだろうと誰もが考える中、千代だけは男の生存を想定していた。それが僕には不思議でならなかった。
「僕等が警戒すべきなのは、男の異能ではない。他組織の人斬りとかちあうことだ。現に、裏切り者が生きているというなら…」
僕は千代助の足元を指差した。べちゃり、と足を濡らしていたのは、泥や汚水だけではない。
「この血は、なぜ刃物に変容せぬ」
その時、前方から悲鳴のような声が上がった。
「あ、――――あぁ、そんな、」
千代助が心を殺した顔で、前方へ走った。味方の悲鳴が響いている。
「そんな、お前、ああ−−−−どうして、どうして!!!」
味方の構成員は泣き崩れていた。男の前には、『裏切り者』と思わしき男が、変わり果てた姿で横たわっている。
肩と脚の付け根から先は、そこを境にして食い千切られたように消えて無くなっている。
床には、芋虫が這いずったような痕が続いており、赤黒い道をつくっている。おそらく手足をもがれた男が逃げた痕だろう。
時間はさほど経っていないのか、コンクリートの床には真新しい肉片がこびりついていた。
生きたまま、四肢を千切られたのは明白だった。裏切り者の表情には死相が刻まれ、 虚空を見つめている。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時