瓶詰めの地獄《伍》 ページ20
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「これから防ぐんだったら過去じゃねえよ。変えられもしねえことに、無理にこだわるのがバカだっつってんだ。たとえば、足立を撃った犯人探し。とかな」
「それはどういう意味ですか」
反論しようとした芥川の言葉はそこで止まった。中也の表情からは、笑顔が消えていた。
「……なぁ、芥川。太宰の奴、あいつが何で消えたのか、知ってるか」
「いえ」
「まあいい。今のうちに言っておくぜ。——手前は太宰と同じになるんじゃねえぞ」
脳が理解するよりも先に、 遠くに聞こえていた轟音が鼓膜をつんざいた。まるで 小噺は終わりだとでも言うように。
音と光が廊下の向こうから迫ってくる。
空気を吸い込み、むくむくと膨れ上がる火柱が、叫び声すら喰っているようだ。
「チィッ……お出ましかァ?!」
中也はマントのような黒外套を翻し、爆風に帽子をとらわれないよう片手で押さえつける。
周囲には黒い空間の歪みのような、冬場の陽炎を思わせる 揺らぎが見えた。異能力−−『汚れつちまつた悲しみに』−−が発動した証拠である。
もはや、ここは戦場のど真ん中だ。
「敵襲ですか」
「そりゃ言わずもがな、って奴だな」
数段低くなった声に押され、芥川の身体は出口に向いた。今はこの空間だけだ。炎が広がれば、ものの数分で病院を飲み込む。
「こっから病院はそう遠くねえ。保って30分弱ってとこか」
振り返ると、中也の周囲には、更に黒い揺らぎが浮かび上がっている。もう力に加減をするつもりはないらしい。
「ほら、行けよ」
残された時間は あまりにも短い。短い警告は、単純な意図を明確に伝える。
しかし芥川は走り出す姿勢を一度とめ、中也へ言葉を投げかけた。
「……千代助の自害は、決して貴方の落ち度ではありませんでした」
返事を待たず駆け抜けて行くと、もう一度爆発音が鳴り響いた。やがてミシミシと壁を壊していくような打撃音が加わる/
中也が闘いに出向いた証だった。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時