優しい世界《七》 ページ34
千代の声は、酷く震えていた。顔だけがいつもと変わらない笑顔だった。
能面ががくがくと震え、音を立てている。―――この男は、誰だ。
「つうか、なんでそんなこと聞くんだよ……お前にだって、視えてるだろ?」
次第に瞳が揺れ、黒い瞳が光を写さなくなる。
夕陽の沈んだ後の病棟は薄暗く、黒髪は最早、どこにあるかさえわからないほど溶け込んでいた。
「……見えないふりすんなよ。ほら。あの部屋から、だらんと」
一体何が。そう問いかける前に、千代が酷く怯えながら叫ぶように云った。
「隣の部屋」
嫌に感情の抜けた声だった。千代の目はなにかをしっかりと捉えているようで、確信を持ったように焦点が合わさっていた。僕には、なにも見えない。
見えているのは―――千代の、赤い瞳だけだ。
わずかに瞳が赤く輝き、灯の光ではない明りをともしていた。このように目が赤く光るところを、僕は一度も見たことがなかった。
「きっと3秒後だ。3秒後に死ぬ」
秒針を刻む音が、嫌に目立つ。なにを馬鹿なことを言っているんだ、と一蹴する準備をしながら待つにしては短く、あまりにも現実味を帯びた秒数だった。
3、2、―――――。
「あの鎖に巻きつかれた奴はみんな死ぬ。……俺だけが視えるなんて、嘘だよな?」
――――1、0。
目の前の部屋からは一斉に、心拍が停止したことを報せるサイレンが鳴り響いた。
隣の病室で、命の灯火が消えかかっている。千代助の、予告通りに。
―――患者の容体が激変しました、CPA!!
―――担当●●番に連絡!ご家族を呼んで下さい!!!
―――カニューレ用意して!!!
「ね、視えるだろ……視えるよね、おれだけじゃない、あんなのが巻きついてたらわかるだろ? だって物心ついた頃には、俺は見えてたんだから……」
錯乱したような声が上がった。僕をつかみ、見上げる眼が赤い。
完全な赤だ。眼球が鋭い赤に変わり、僕をまっすぐに貫いていた。
「異能を持った構成員が、五人も。あいつらは結託して組織を潰す気だった。奴らは中也さんを殺す気だったのさ。先に叩く以外に何をすべきだったってんだ」
「おい、千代助」
「殺されるのが判ってるのに、どうして誰も手をださねぇ?何で誰も気が付かない、首領も、太宰さんも、判ってない筈がないのに…どうして、」
そこでうめきが止まった。
「まただ」
そう呟き頭を強く抱えたまま、千代は病室の番号を読み上げて行く。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時