スタートレック・ファンタズム《四》 ページ24
◆
機能しない昇降機の代わりに、芥川は階段を駆け上る。
走っても走っても、敵と思わしき人物とすれ違わない。いやな静寂だった。
上へ上へと向かうにつれて、茨が取り囲む空間の、甘い香りが濃くなっていく。
息が浅くなる。敵が近い。心臓が更に早鐘を打つ。八階にたどり着いたころには、足が棒になっていた。
走りなれていない脚も肺も悲鳴を上げ、口の中には鉄の味が充満している。
耐え切れず、芥川は壁に背をあずけ、胸を抑えて崩れ落ちた。
息を吸うと、薔薇の濃い匂いがする。
肉質な薔薇は植物とは思えない生命感を持ち、芥川を無機質に見下ろしている。
芥川は舌打ちをし、よろよろと立ち上がる。
壁に手をつきながら、数時間前に訪れた足立少年の部屋まで身体を引き摺った。
「…千代助、」
医者、患者、看護師。彼が知る病院を構成する人員は、たった三種類だ。
しかし、それ以上に病院を回すための歯車が居ることは、知識として知っている。
そんな無数の人間が集まるはずの空間から、人が消えた。
そのなかで、たった一人、足立だけが取り残されている。
理由はわからない。襲撃の中、足立が五体満足でいるのか。敵はどこに潜むのか。何も、わからない。
芥川は白いドアに手をかけ、茨を切り裂く。
「……起きろ、愚図…!!!」
腹の底から吠えた声とともに、ドアは強く開け放たれた。
住人不在のベッド。風に揺れるカーテン。繋がれていたはずの管。破れた点滴の袋。
―――その全てを覆い隠す、大輪の薔薇。
どこに咲いていた花よりも、何廻りも大きな花が、窓枠にもたれかかる人影を守るように蠢いた。
「……こちら、007。応答せよ」
薔薇の花は、女の声をさえぎらないよう、従者のような動きではけていく。
女の赤い目が芥川をまっすぐに貫く。女は耳元の通信機へ、機械のような抑揚のない声で言った。
「黒外套の少年、本当に来たわ。貴方の言う通りじゃない。坂口君」
窓の枠には、茨の女王が佇んでいた。
・
スタートレック・ファンタズム《伍》→←スタートレック・ファンタズム《参》
144人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時