蜘蛛の糸、八本目 ページ8
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さて、気がつけば口の周りに彼らの青い血がまとわりつき、手などにはいくつも虫の粉と内臓とが混ざった何かが纏わり付いております。
ぎょっ、としたのも束の間です。
口の中に残る極上の生肉らしきものを早々に飲み込まねば、完全に正気になった後では目に手も当てられぬことになってしまうに相違ありません。
「…育てて私を食べてしまう気なのかしら」
「こんな肉付きの悪い蜘蛛など誰が食うか」
彼はこうした憎まれ口を幾らでも叩きますが、虫を喰らう私を汚らしいとは一言も言った試しがありません。
龍之介は無言で私を手の上に乗せると、直ぐそばにあった古びたレンガの柱にそっと離しました。
それから与えられた虫を貪っていた私を見ても何も言わず、酷い有様の瓶を水で洗い始めました。
わざわざ沸騰したお湯の中へ瓶をくぐらせて、滅菌までする手のかけようです。
それを冷やして適温にし、天日干しにしてカビをすっかり追い払ってから、
ようやく私を瓶の中へと戻すのでした。
龍之介は破壊的で野生的な気質の少年でしたが、何かを大切にする方法は、よく分かっていました。
ちょっとした折の細やかな気配りや親切は、常の「心無い野犬」が如き姿からは想像もできないほど丁寧なのです。
仲間のうちで犬の遠吠えや銃声に怯えて泣く子供があれば、いくつもの生き血を吸った衣服の刃物の形を変えて、花や動物の形に変えて人形劇を始めます。
見た目は如何にも絵心のない彼らしい、ボロボロの化け物だらけなのですが。
彼の語るお話はどこまでも魅力的で、怯えた子供の心さえも暖かく惹きつけるのでした。
彼の仲間たちが、龍之介の暴力的な強さを恐れながらも、間違いなく家族に向ける愛情を抱いて接しているのは、彼のこうした一面を慕ってのことでしょう。
そうこうしているうちに、龍之介が瓶を天日干しし始めました。
すっかり美しい姿に戻った上等な厚底瓶がカラカラになってくれるまでの間に、少し龍之介の仲間たちについてお話しすることにします。
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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時