蜘蛛の糸、七本目 ページ7
◆
ぽたり、ぽたり。
いつものように瓶の中に作った巣に水が降りかかりました。
野風に晒される流浪生活を繰り返していれば、この程度の刺激は特別なものに感じなかったのですが。
厚底瓶の中だけが世界の全てとなった今では、この水の粒は意味を一つしか持ちません。
先程眠ったばかりだというのに、もう朝になったのでしょうか。
「おい」
不遜な声と明るい光。
朝特有の現象が二つ。
「(ああ、朝です)」
蜘蛛には瞼がありませんから、頭の中のスイッチが切り替わるだけなのですけれど。
そのスイッチがこちん、と切り替わった音が、頭の中で響ました。
龍之介の声と朝日。
その二つがなかったら、私は起きることができなくなってしまったのでしょうか。
「喰ったならば、そこの柱に退いていろ」
そう言って瓶の底へ降ってきたのは、…口にするのも憚られるように無残な姿をした、羽虫どもでございました。
これらは皆 蜘蛛の私が腹を満たすのに好んで食べる、哀れな虫けらでございます。
本当にギリギリ、生き餌の体を保っていますが、捉える時に捥がれた脚が 粉のようになっているばかりか
破れた腹からいくつも青い内臓が覗いております。
こんな劣悪な環境で育った虫ですから、もちろんロクなものを食べてはおりません。
彼らの口にしたものに取り憑いていた、より細やかな蟲が、彼らのハラワタを食い破ってうようよと蠢いておりました。
途端、私の中に眠る野生が音を立てて切り替わりました。
目の前に覗くハラワタが、極上の肉塊以外に何も見えなくなりまして、
――――それからのことを語るのは、自重致します。
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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時