蜘蛛の糸、十七本目 ページ18
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「そのようなことを繰り返し、いよいよもって男は、人間の世の中に愛想を尽かした。次に男が老人にあった時には、世捨て人として仙人になることを申し出た」
「…仙人?そのお爺さん、……教えられるぐらい、すごい、仙人だったの」
「そうだ。青竹一つで、山々の上を飛び去ることぐらいは平気でやった」
絵描きの小さな男の子が尋ね返すと、龍之介は静かに頷きました。
それから思い出しながら、記憶の糸を手繰るように、ぽつぽつと詩を吟じなした。
――――どうしてだか、とてつもなく、不機嫌そうな声音で。
「…………あの雌蜘蛛めは、『漢詩など女が読めるはずもない』と
仙人が詠ったとされる漢詩を、僕が無学を承知で読み下せば、こうなる。
三たび
朗吟して、
兎も角、大凡このような意味の漢詩を詠いながら、青竹を足にして仙人と男は、これからを世過ぎる山奥へと飛び去って行った。
そうして着いた先の山奥で、男は遂に仙人になるがための修行をなした」
―――あぁ、これは。
「(あのお話を選んだのですね)」
唐突に悪口を言われて何事かと思いましたが、中途半端にしか教えていなかった物語と言われて思い出すのは、
あの中国の物語に他なりません。
わかって仕舞えば、残酷な結末が目に見えてくるというものです。
その仙人になるための修業というのが、『人間に心の底から失望するため』に女に転生し直し、もう一度人生を送るというものでした。
薬の幻惑によってとびきりの美人に生まれ直した男は、やがて盧という男と結ばれます。
この美貌に惹かれた夫は宝物のように妻子を大切にしましたが、仙人の教えに従い何一つも声を発さぬ男に腹を立て、ついに我が子である2歳の息子の足を持ち、岩に頭を叩きつけてしまうのです。
その時、彼の身に宿る母性…いや、父性が蘇ったのでしょう。
息子の血が飛び散るのを見た彼は、
気がつけば『ああ』とだけ、小さな叫びをあげていたのでした。
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伊織 - もう好き...!最後ウルっときましたよ。というか泣いちゃいましたよ。ほんと構成がお上手で...。芥川先生の作品たくさん使ってるの凄い好きです。千代の方も読んでるのですが作者様天才ですね。感動作品をどうもありがとうございます...! (2021年5月22日 18時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - コメントありがとうございます!!初めて書いた女主人公が蜘蛛(雌)ェ……とはいえ、実は人間だった頃が誰なのか、モチーフが居ますので、もしも暇だったら蜘蛛の前世当てクイズに挑戦してみてください笑笑 意外にも多くの方に読んでいただけて嬉しい…(芥川はいいぞ…) (2019年4月2日 11時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
多田野メガネ(プロフ) - どうも多田野です。千代の記以外の、それも女(雌?)主人公が新鮮でした(°▽°)突然の告白ですが、所々に芥川作品要素を垂らしていくマボ様が好きです。 (2019年3月27日 13時) (レス) id: d89d5986ef (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - ありがとうございます!!何も考えずに三時間で書いてみるチャレンジで、殊の外うまく書けたものなので完結させてみることにしました笑笑ギャグシリアス、展開などこれっぽっちも考えず、思いつきで書いております。とても短いお話ですが、最後までお付き合いください! (2019年3月25日 16時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴※惰眠愛してる(プロフ) - 新作おめでとうございます! (2019年3月25日 0時) (レス) id: cf0e41908a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2019年3月25日 0時