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仕置き人の産声《上》 ページ9




鴎外は手を伸ばしかけて、空で止める。

膝をついて、少年にゆっくりと言い聞かせた。

己の中に横たわっていた、深い絶望の正体に気が付いてしまった子供をなぐさめるように。


「だから言ったろう。君はマフィアに復讐などしかけていないんだよ」

「父上も、母上も、おじいさまも、子供である君にとっては完璧な存在だ。
 愛し愛される親の人間的な欠陥なんて、そういう大きなまやかしを見つけられる年齢じゃない。だが。君は事実、恐るべきバランス感覚でゆがみを見つけ出した」


鴎外を見上げた少年の目に光はない。
何が正義で、何が悪なのか、彼をつらぬいていた「ただしさ」の天秤が狂い始めている。


「足立君。君にしか頼めないことがある」

「……?」

「私が間違えたとき。その刀で、私の首を斬ってはくれないか」


握りなれた脇差しを、吊られていない右手に持たせる。


「足立君は、ほんの少し離れたところで世界を見る目を持っている。その眼で見る世界は醜く、正義も悪も、何も変わりないかもしれない。
―――それ故に、残酷なまでに平等な眼を持つ、君に裁いてほしい」

「裁く?…俺が?」


刀を握り、あぜんと見上げる少年に、鴎外は無防備に笑った。
長年の友の姿を、少年の中に見出したようだった。


「私にはもう、間違いを教えてくれるものがいないのだよ」


もはや少年の中に、黒社会で生きていくことへの疑問はない。

信じてきた正義が崩れ去った今、人を斬って生きる世界で、悪党として生きる方が良いように思えていた。そちらの方が―――よほど素敵だと思えた。


「…俺が斬るのは、間違えた人、ということですね」

「ああ」

「斬るのは貴方だけで良いんですか?
『俺』は貴方の正義を裏切った者の、仕置き人になる気概ぐらいございますとも」



―――交渉は、終わった。



少年は暗闇を宿して目で、快活に微笑んだ。


「…俺は恨みゃしねぇ。アンタの正義とやらを信じるよ。首領」


この世で何も信じるものはないと、正しく絶望した男の眼をしていた。


仕置き人の産声《下》→←.



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設定タグ:文スト , 芥川龍之介 , 文豪ストレイドッグス   
作品ジャンル:ミステリー
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 飛沫さん» ご読了ありがとうございます!!!書いて良かったです!!!!いつも応援のメッセージやイラストをありがとうございました(;_;)完結までの糧になりました!これからも創作活動をやっていこうと思える応援の数々をありがとうございました!!! (2020年6月27日 10時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 完結おめでとうございます! テストのせいで読むの遅れてしまいました。足立くんの切実な心を見れて嬉しかったですし、凄く感動しました!おつかれでした!! (2020年6月27日 7時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - よしな。さん» 最後まで読んでくださってありがとうございました!!!!闇堕ちする過程のお話なのでふざけることなくここまできてしまいましたが、シリアスでも最後までお付き合いくださったのがマジでありがたいです!書いてよかった!!!ありがとうございました!!! (2020年6月23日 23時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 好きです……!闇堕ちして暗殺業で生きていく決意をした足立くんを見たときは泣きそうになりましたが、茨の道を進んでも彼はなんとか生きてほしい。やっぱりこのシリーズ凄く好きです。 (2020年6月22日 22時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 操咲作乃さん» こんにちは!元気です!!!コメントありがとうございます!!コントもシリアスも頑張って書いていきますので、おつきあいください笑笑笑笑 (2020年5月12日 15時) (レス) id: b5b4ae2a61 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2020年5月10日 17時

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