菩提樹下の逍遥《四》【文IスIト】

夜明け前《壱》 ページ21

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「次に、首領が処方した解毒剤について解説するね」


足立は車椅子の簡易机を引っ張り上げ、芥川に見えるようノートを広げた。

ポートマフィア本部の中庭で、唯一日光から逃れられる菩提樹の木陰に、少年2人は大真面目な顔で並んでいる。


「対策の鍵を握るのはオピオイド受容体だ。
　こいつはホルモンやウイルスとくっついて細胞の働きに影響を与える器官で、細胞の表面や中にある。今後は『受容体』と省略させてくれ」

芥川が返事の代わりに小さく頷くと、足立は続けた。

「オピオイドは、俗に言うマヤク成分全般を指す。身体でつくられるものでいえばドーパミン、自然界だとモルヒネやコカインが身近な例だな。
　こうしたマヤクの効果が身体に伝わるのを防ぐには、伝達器官である『受容体』をおとなしくさせる必要がある」


・オピオイド→マヤク成分
・オピオイド受容体→マヤク成分を身体に伝えるもの

と手元のノートに書き出される。


「受容体をおさえる他に、対処法はもう一つある。今度は逆に、身体にはいりこんだクスリを薄めるフィルターを活性化させるんだよ。
　クスリの血中濃度が自然に薄くなっていく時間を血漿半減期という。
　こいつを早めるために代謝を良くすれば、元々半減期が短いフェンタニルの場合はほとんど効果をなくせる。…フェンタニルって、俺が使った薬剤のことな。
　今までの話を図にまとめた。ノートを見て」
　

解毒剤(？)の効果
【めあて】フェンタニルの作用を軽くしよう

1、代謝を良くし、血漿半減期を早める
血漿半減期→お薬成分の血中濃度が薄まる期間

2、オピオイド受容体を鎮静化する



「なんで自分で打った毒物の解毒剤の説明してんだろう俺………」


計画を話せば、より冷静になる。

理性的になればなるほど、今までの凶行が生々しく思い出されて頭がぶち切れそうになる。

精神操作がどこまで及んだのかを探る治療の一環として、自身の犯行について事細かに芥川に語っている足立は、そろそろ限界が近かった。

事件収束から一月。

外出許可が降りてからは、足立を車椅子に乗せて散歩をする機会も多くなった。

それからは芥川の数少ない優しさストックも在庫が切れ、知的好奇心を埋めることに貪欲になっている。


「休むな。フェンタニルの効果と、入手経路の説明が残ってる」

「ああああああああああ」

「お前が僕に打った毒物は一体なんなんだ。フェンタニルを何故打つ気になった。どこから仕入れた」

「ああああああああああ」


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