チェックメイト《壱》 ページ11
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事件から半月が経過し、芥川のもとに、足立の意識が回復した旨の知らせが届いた。
足立の師であり、直属の上司である中也とは面会は済ませているようだが、これから一般構成員との面会が可能になるのか決まるという。
用件はたったそれだけだった。強いて文を読み返しても、処罰についての言及は何もされていない。任務帰りのような扱いに、芥川は戸惑った。
罰せられる必要がない、ということなのか。クーデターの首謀者に対する対応とは思えない。
処罰がないことへの安心感よりも、処罰がないことへの違和感を覚える。
気が付けば、芥川は病院にたどり着いていた。
嫌な違和感を抑えられず、面会許可が下りる前から、芥川は足立が入院している病棟に乗り込んできたのだった。
ポン、と小さなベル音とともにエレベーターが目的地の階に着く。そのまま歩き出し、探し続けていた和服の背中に向けて声を掛けた。
「尾崎さん」
呼ばれた紅葉は疲れた微笑を返す。入院着はもう着ていないようだが、まだまだ病人の影が濃い。
「お加減は」
「殊勝な挨拶ができるようになったものじゃ。久しいのう、童」
久しい?意味を考えたが、すぐに芥川は紅葉にとっては『久しぶり』の出会いだったと思い直す。これまで尾崎紅葉だと思われていたのは、変装を駆使した足立一之だったのだから。
紅葉は発見されるまでの2日間、鎮静剤が点滴で打たれている状態で自宅に放置されていたという。昏倒していたほかに外傷はなく、軽い脱水などの症状が見られたほかに異常は無かった。
わずか一日での退院だったが、軟禁されていた二日間の疲労はまだ抜けていないらしく、まばたきが重い。変装のために剥ぎ取られた和服を仕立て直すには、もう少し時間が要るだろう。
「面会ができるようになったとはまだ伝えられておらんじゃろう。気の早い奴じゃ。だが、ちょうど良いときに来た」
紅葉は後ろの診察室を横目に言った。
「もうすぐ若君の検査は終わるぞ。人前に出られる心理状況であると判断されれば、すぐにでも面会できるじゃろう。体調のほうも車椅子さえあれば、外に出る許可がでると聞いた」
二人が待つ診察室で、足立は『精神分析』を受けている。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 飛沫さん» ご読了ありがとうございます!!!書いて良かったです!!!!いつも応援のメッセージやイラストをありがとうございました(;_;)完結までの糧になりました!これからも創作活動をやっていこうと思える応援の数々をありがとうございました!!! (2020年6月27日 10時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 完結おめでとうございます! テストのせいで読むの遅れてしまいました。足立くんの切実な心を見れて嬉しかったですし、凄く感動しました!おつかれでした!! (2020年6月27日 7時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - よしな。さん» 最後まで読んでくださってありがとうございました!!!!闇堕ちする過程のお話なのでふざけることなくここまできてしまいましたが、シリアスでも最後までお付き合いくださったのがマジでありがたいです!書いてよかった!!!ありがとうございました!!! (2020年6月23日 23時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 好きです……!闇堕ちして暗殺業で生きていく決意をした足立くんを見たときは泣きそうになりましたが、茨の道を進んでも彼はなんとか生きてほしい。やっぱりこのシリーズ凄く好きです。 (2020年6月22日 22時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 操咲作乃さん» こんにちは!元気です!!!コメントありがとうございます!!コントもシリアスも頑張って書いていきますので、おつきあいください笑笑笑笑 (2020年5月12日 15時) (レス) id: b5b4ae2a61 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2020年5月10日 17時