菩提樹下の逍遥《四》【文IスIト】

チェックメイト《参》 ページ13

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「千代助が昏睡から回復する時期をカルテで見極め、部下の行動を操作できる人間を、僕はたった一人だけ知っています」


息を飲み、名前を言い切った。


「森鴎外。——首領と精神操作の異能者は、裏で共謀していたとしか思えぬ」

「……成る程。では芥川、お前様はこう言いたいのか。

鴎外殿は、足立一之に精神汚染をあえてしかけ、クーデターを起こさせたのだと。このクーデター自体が、出来レースであったと。そう言いたいのじゃな？


芥川は無言で紅葉を睨みつけた。両手を握りしめ、紅葉の凍り付くような視線から耐えた。紅葉はゆっくり唇を開け——。


「敗けた」

「——は？」

「芥川。お前様の熱意には敗けた。と言っているのじゃ。その通り、すべては鴎外殿の計画通りよ！」


ほほほ、と上品ながらも愉快そうな笑い声をあげた。


「計画とはいえ、身ぐるみはがされ、二日も軟禁されていたままでは腹の虫が治らぬ。全て話してしまおう！
……鴎外殿はな、どうしても『足立一之』が欲しかったのじゃ」


衝撃的な発言に芥川が驚いている間に、紅葉はすぐに話を始める体勢に移っていた。


「芥川よ。異能力はさまざまな種類があるが、一人の人間に複数の異能が宿ることはあると思うかえ？」

「い——いえ。異能力は一人につき一つしかないはず。例外はないと聞いています」

「その通り。『異能力は一人につき一つ』。これが基本的な原則じゃ。異能力は肉親に対して譲渡することはできても、既に異能を発現させている肉親に送ることもできぬ」


芥川が理解を示すために頷くと、紅葉は言った。


「では、『一人の人間が複数の異能を持つ』ことができる例外がある。ということは聞いたことがあるかえ？」

「それは、聞いたことが——」


ありません。と答えようとしたが、足立一之という例外を思い出した。足立は何哉等草(からやぐさ)という精神操作異能を持っていながら、まるで本物の異能のように『嫌な予感』を感じ取る力を持っている。


「精神操作の異能者は、殺したものの脳髄にとり憑き、死ぬまで呪う。と云う話は流石に知っているな。
　精神操作異能だけは、異能者本人が死んだ後もこの世に残り続ける。自分を殺した人間に『憑き物』として一生取り憑き、脳内で語りかけることもあるそうじゃ」

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