【奈落】《中》 ページ10
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『タス、ケ テ』
『タスケテホシカ、ッタ』
「死んだ子供をあやして何になる」
「あ、……ぁ、」
彼は、絶望と恐怖とで涙をこぼした。
永い、しずかな、地にもぐり込みたいようにそれは悲しい涙であった。
少年の涙は止まらなかった。
自分でもなぜ泣いているのかわからないようだった。どうすることもできず、頭を垂れてただ泣いていた。
彼の中で何かが�壓がり、何かが溶け出していた。
熱い涙が漲り出してとめどがない。
しばらくの間、涙の出るがままにそこにぼんやりしていたまま、虚ろな瞳で子供の名前を繰り返し呼んでは 少量の血を吐く。
腹を穿つ三発の銃弾が、未だに猛威を振るっている。
しかしその傷が、子供らを殺したようなものなのだ。
「人間のなす悪事はその死後も尚生き延びるものであり、善業はしばしばその骨と共に埋葬されるもの。無論君の為そうとした善業とて、あの男は悪事であると数兆言いふらすじゃろう」
少年の朧げな視界に、《猿》が飛び込んできた。
それから記憶がぐちゃぐちゃと掻き混ぜられて、灰色の外套を身に纏った男たちが銃を突きつける、殴るといった光景が視神経を迸った。
どこか車内で、閉じられた窓から必死に走る男に向けて助けを求める。
織田作之助だ。
彼は少年が見たこともない形相で必死に車を追う。
「聡明たる貴殿らの主人 森鴎外殿は語った、お前様が野心を抱いていたと。狂気を以って鴎外殿を暗殺せしめんと欲していた、とな。
そうであればそれは嘆かわしい罪に他ならず、嘆かわしくも君はその報いを受けるべきなのじゃろうな」
少年には身体中の感覚が抜けかけていた。腹の傷の焼け付く痛みも忘れているのに、頭の中だけが明瞭になる。
焼ける車内と 転がる子供らの死骸が、脳裏に己の記憶としてこびりつく。
しなければならぬことがあると叫んでいる。
「君は、ただ子供らを守り、慈しんでいた。
心の底から愛していたものを奪われるのは これで何度目か。二の舞になるものかと、君はただ全力で動いただけのこと。
このような少年に野心はあったのかのぅ?」
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時