朋にあるべきもの《参》 ページ8
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芥川は少しだけ眉を顰めて言った。
「……どうか、お分かり頂きたい。僕は決して貴方を裏切りなどせぬ」
「だが、一之君の為なら、君は首領のことすらも謀って良いと思うのだね」
謀った。その一言に芥川は、もう己が歩む道は一本道であることを悟った。
失敗すれば、処刑される。
それをわかっていても、芥川は迷わずその一歩を踏み出した。彼が望む未来もまた、一つだけだったからだ。
「大した友愛じゃないか。一之君のためなら迷いなく命を天秤にかけられるのかい」
どこか重みを感じさせる鴎外の言葉に芥川は苦い顔をした。
「そのような大層なものではない。我々の関係に名などありませぬ」
「ほう」
純粋に、驚くように目を見開いた鴎外に芥川は「然り」と頷く。
「互いのことなど何も知らぬ、赤の他人です。本来ならば、交わることも無かったであろう存在。我々は文字通りに、住む世界が違う人間同士です」
芥川は、自分がなぜ、ここまで強い衝動に突き動かされるのか。
自分にとって足立一之がどのような存在であるのか。
「それでも、――あれは、」
芥川の脳裏には、瞳の先には鮮明な記憶が蘇っていた。
「太宰さんは。僕と千代助のような間柄をこう呼んでいました。『親友』だと。……本当にそのような関係になれるのであれば。僕は、奴にとっての親友になりたい」
その時の芥川の表情を、誰一人として目にした者はいない。
既にその頃には、彼は踵を返して歩き出していた。
まるで散歩でもするような、何ものも全く気にする様子もない足取り。
その背中に、鴎外は強い既視感を覚えた。
『首領。確かに利益はありません。私が行く理由は一つ。友達だからですよ。では失礼』
それでも、彼らには圧倒的な違いがある。
決められていた結末に寄り添おうと歩く者と、決められた筈の未来を変えるために歩む者。
その時 鴎外の胸の内に、ふっと泡が浮かび上がるように、ふうわりとこんな思考が浮かんだ。
“彼ならば、最悪の未来を変えることができるんじゃないか”
鴎外が浮かべていたのは、あの時太宰を見送った薄笑みではない。
「私は、あれが悪夢だと思っているのか」
公の者として、組織の僕となるために押さえつけていた己が 罪に気がついてしまった絶望が浮かんでいた。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時