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フェーギップ・ミア《壱》 ページ41

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俺を乗せた車椅子はゆっくりと、廊下の上を滑っている。

どこへ向かうのか、今日の日付も、いつから俺は目を覚ましたのかも、まるで見当が付かない。

遠くで心拍計の音が鳴っている。

それから呼吸器が酸素を送り込む機械音。

生を維持するための機械の気配がする。


判っているのは、ここが病院であることと、

車椅子を押しているのが中也さんだということだけだ。

今、どんな顔をしているのだろう。

包帯で閉ざされた眼では、自分の顔も、中也さんの表情もうかがうことは出来ない。


「手前に問う権利はねぇ。聞かれたことにだけ答えろ」

質問の途中で、病院らしい騒ぎが起こった。

廊下を駆け抜けていくいくつもの靴音と、
悲鳴のような看護婦の声、
心臓が停止していることを知らせるけたたましいピープ音。

「手前が今回の戦乱で殺した、同胞の数は何人だ?」

「わかりません」

俺は病室の中で、命が止まる音に何度も触れた。

俺が奪った命の数を教えられている。


「意識が戻ってから45回、心停止の音を聴きました。…それ以上は、判りません」

「その大罪を抱えて、組織で生きることを許されると思うか?」

「…………どうして命を奪ったことが許されなければならないのです」


ここには事件の後で、命を取りこぼしそうな大怪我を負った人間たちが
大勢収容されていた。

皆、足立一之という復讐鬼を中心に生命を脅かされた集合体だ。

その心臓が止まるサイレンが、俺の引き起こした事件が『取り返しのつかないこと』であると告げている。


「目的のためなら命を奪える時点で、もう、私は被害者ではありません。罰を受ける覚悟はとうにできております」

「そこまで言うなら、今ここで、殺されたとしても文句はいわねぇんだろうな」


俺を変えてしまったのは、不条理なお別れだった。

可能な限り手ひどく、手が届きそうで届かない、ほんの少し先のところで、大切な人を失った。この経験が重く重くのしかかり、精神は正しい形を忘れて歪んでいった。


「はい」

しかし、俺の返事に迷いはない。

「ただ殺めるだけでは、清算に足りないと仰せなら。どんな処遇も甘んじて受け入れます」

自身だけではない、回りを恨むようになっては、俺は生きていても良いと思わない。
堕ちてはいけない場所に崩れ落ちて、魂が正しい形を保てなくなったのだから。

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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時

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