千羽鶴の記憶《伍》 ページ32
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「お前様が、『足立一之』かぇ?」
紅葉は子供の目を隠し、夜叉を背に纏った。
芥川には、彼女が子供を殺す気で夜叉を呼び出したのではないことが、すぐに分かった。
「尾崎さん、貴女は――」
自然と声が震えた。彼女はとんでもないものを背負おうとしている。
子供の「親殺し」、これまでに起こった残酷な出来事を全て自身の罪にしようとしているのだ。
その覚悟をした彼女はまだ、18にも満たない、今の自分と大差のない小娘だ。
外に転がる遺体を夜叉でくりかえし嬲り、
激しく損傷させていく。
続けざまに母の遺体を、夜叉で貫く。
全てが済むと、紅葉は子供の意識を覚醒させるように、髪を掴んで揺らした。
「………………貴女が、斬ったの?」
放心状態から戻った子供が見たのは、
母の腹を貫く夜叉。そして息絶えた母、自分を囲むように覆っていた折り紙の残骸だ。
そうして外に転がる、家族の酷い姿を見た瞬間に、子供の殺気が爆発した。
「おしえて、おしえろ」
「……何でみんな、死んでる」
「違う」
芥川は咄嗟に声を出した。
この人はただ、悲しい罪を被ったのだ。
誰一人としてお前の家族を奪ってなどいない。
「何でこんな、…………ぐちゃぐちゃしてるの、」
「待て、千代助!!」
「今度は誰が……誰を殺すの」
声が届かない。当たり前だった。
これは子供の――足立の悲しい記憶に過ぎない。
記憶を見せ続けているサトリは、さらに大きな声を上げて笑った。
足立の周囲にある折り紙が、色をさらに黒く変えて浮き上がった。
まるで母の異能力を受け継いだかのように、折り紙が彼に従っていく。
―――精神操作の異能者は、殺したものの脳髄にとり憑き、死ぬまで呪う。
不意に芥川が思い出したのは、尾崎紅葉に扮した足立から聞いた、精神操作異能だけがもつ力である。
「(まさか斯哉等草は…千代助の能力ではなく)」
女が自分を殺した息子―――足立一之にかけた【母親の呪い】か。
「正解じゃ」
サトリは老人のようにしゃがれた声で嗤う。
『殺す理由が なかったから』
『尾崎さんは、俺の、仇じゃないから、』
芥川は、己の問いが記憶を掘り起こしたことに気がついた。
ひゅ、と鋭い息を吸う。
瞬きを挟んで、和室は元どおりの夕暮れ時に戻っている。
子供は――足立一之は、尾崎紅葉の衣服を羽織ったまま、己の手を眺めていた。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時