芥川VS足立《壱》 ページ21
◆
見渡す限り山、山。
4年ぶりに訪れた故郷は、記憶と少しも変わっていない。平屋建ての武家屋敷を囲うように、険しい山並みが続いている。
山の中で暮らしているというより、山という監獄の壁が競り立っているようだ。
俺は故郷の景色を、決して超えられない牢獄のように思っていた。が、それを不幸に思ったことは一度もない。
牢獄には愛が満ちていた。
拳銃の扱いが箸運びより巧みになったことを、苦笑いしながらも「器用だ」と褒めてくれた。
食事にまざった毒に慣れて、戻さなくなったときも「強い子だ」と笑って撫でてくれた。
どれもが日常の断片だ。
優しい思い出が、俺を残酷にする。
当たり前の日常に混ざった殺しの教えが、残酷になった俺を助けてくれる。
俺は懐かしむのを辞めて、作業を再開した。
―――俺をこれまで愛してくれた人たちは皆、土の下に埋まっている。
その墓前で黙々と、最期の仕事を仕上げる。
昔、父上と天体観測した場所で、スナイパーライフルの標準を合わせた。
頭の中で飛行機の爆破をシュミレートし、70人弱の命を奪う想像をする。そこに倫理的なためらいは一切生まれない。
これまで復讐の仕事をしてきたが、一度も正当防衛以外で命を奪っていない。
弱者が強者を倒す手段――【騙し】に徹底し、相手の力を使って暴走させることを念頭に置いて行動してきた。
だから、これが初めての【虐殺】だ。
特務課の
俺がこれから撃ち落とすのは、約10分後に真上を通過する飛行機だった。
自動操縦に設定された飛行機の中では、俺の家族の人生をおもちゃにした
もちろん本部に戻るだけの彼らには、閉じ込められているという自覚もないのだが。
耳を澄ませる。
静かな山に、遠くのエンジン音が届いた。
飛行機はもう直ぐ着く。
ライフルに指をかけたその瞬間。
澄ませた耳を遮るようにヘリコプターが飛来した。
ヘリから黒い槍が降り注ぐ。
俺は構えた銃から指を離し、空いた腕で刀を振るった。
その全てがほとんど同時に起きた。
向こうは、俺の最期の逆襲に気がついているらしい。
―――ということはつまり、勝機がある。
「やる気だな。千代助」
「怪我人に同情とかねぇの、芥川」
奴らの乗った飛行機が到着するまで、あと7分弱。それまでに此奴と、ケリをつける。
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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時