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死の味がする生の幸福《伍》 ページ16

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三角法で軽く彼女の体格を計算した後、すぐに掛け布団やシーツを運ぶための手押し車をここまで持ち出した。


その中に気を失った尾崎さんと、上からシーツをかぶせて仕舞えば、周囲から確認されることはない。


この病院には霊安室から遺体を運ぶため、地下駐車場にすぐアクセスできる位置にエレベーターがある。


俺はそこから堂々と地下へ向かい、斎場へ行く車に尾崎さんを隠した。


しかし、運ぶ途中で彼女が目を覚ましてはいけない。


車に乗せる前に、ここで、命を奪うべきだ。


復讐者であれば、そう決意するのが正解だ。


―――それなのに俺にはなぜか、この人の命を奪う気にはなれなかった。


『諜報員』という一点において彼女を不倶戴天の敵と認めていたけれど、尾崎さんを恨んでいたかと自身に問うても答えられない。


それどころか本能はむしろ、尾崎さんを殺すことを忌避している。


母さんを目の前で奪った光景を思い浮かべようとしても、なぜだか鮮明に思い出すことができない。


一転して沸き起こる、矛盾する感情に小首をかしげつつ、俺は鎮静剤を選んで彼女に点滴をした。


鎮静剤には意識を落とす効果しかないし、目覚めた瞬間に体が動けるほど負担が少ないことを考えれば、麻酔を打つべきなのかも知れない。


それなのに何故か、「後遺症」について考えてしまう自分がいる。


「(もう一度この人から、居場所を奪うだけで十分ってこと…、でも……あれ、)」


俺、この人から本当に、何かを、奪われたんだっけ、



『おかあさん、おかあさん!!』

『やめて、おかあさん、やめて』


やめて?


なんで俺、「やめて」っておかあさんに言い続けているんだ?


――違う。母さんは、俺を守ろうとして死んでしまったんだ。尾崎さんから俺を守ろうとして、…妙なことを考えるのはやめだ。


さて。なり変わるための準備を始めよう。


携帯機器を取り上げた瞬間、端末は静かに震えだした。


電話に出る前に、声を作ることを忘れずに、


彼女に変化をする第一歩を踏み出す。


「――何ぞあったか? 中也」


演技にすっかり騙された様子の中也さんに虚偽の指示を出しながら、俺は手を動かしていた。


長襦袢だけの姿になるまで身ぐるみ剥がし、着物、髪飾り、それに刀も残さず取り上げる。


行き先は彼女のセーフティハウスで良いだろう。拘束器具は何も要らない。


自宅のベッドに寝かせたまま、鎮静剤を点滴で投与し続ければ、意識レベルが回復することはない。


おやすみ尾崎さん。目を覚ました頃にはもう、戦争は終わっていますよ。


死の味がする生の幸福《六》→←死の味がする生の幸福《四》



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伊織 - いえいえ!!私が気にしすぎてるだけなのでw お忙しい中目を通してくださってありがとうございました! (2021年8月18日 14時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 伊織さん» また、先述のとおり、多忙につき反映が難しくなってきたため、誤字報告・指摘の窓口は一度閉めることになりました。 せっかくのコメントに、不誠実な対応をすることになっては心苦しいからです。。。 忍びないのですが、今後は「まあいっか!」で流してください( ; ; (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - そこまで読んでくださった方がいるとは……!誤字報告ありがとうございます!多忙につき、反映に時間がかかると思いますが、物語として重要なシーンなので訂正いたします!ありがとうございました!! (2021年5月22日 12時) (レス) id: 253e5eff26 (このIDを非表示/違反報告)
伊織 - モールス信号なのですが...紹介ページ?みたいなところ、オじゃなくてエになってると思います。オは「・−・・・」かと...図々しくもすみません...! (2021年5月21日 21時) (レス) id: 399c3e6058 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - いつもありがとうございます!!これまでの芥川少年の行動を振り返ってみると「?!」の連続ですよね…笑笑 足立も芥川関係になるとグッズグズになるので五分五分かと思いつつ、やべえなと書いてる自分も思う時があります。 (2018年12月11日 19時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年7月8日 15時

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