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パンドラの匣《伍》 ページ33

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「………カタギで生きていようと関係ない。奴が。先代の孫だというだけで十分でしたよ。同じだけの暴力を返してやれれば良い。たったそれだけのこと以外、僕は、考えなかった」


カタギで育っていたはずの、先代の孫。


そこで生きてきた名前も家族も、【アダチカズユキ】という呪われた血によって、マフィアに奪われた。


――しかし、そのマフィアの宝を奪ったのも【アダチカズユキ】だ。


復讐の連鎖が繋がっていく。


血によって続く恩讐の繰り返しは、こうして目の前で起こり続けていた。


「孫の足立から日常を奪ったのは、我々です」

「日常、か。……千代助とて、真っ当なカタギに育てられた子供とは言えないがな」

「人殺しを教える家庭が健全かどうかなど、そんなことを議論する資格はありません。あの箱庭が、あの男の子の揺りかごだった。

 それら全てを、少年が『足立一之』であることだけを理由にして奪い取った。その事実があるだけです」

「………。」

「一体どれだけの当たり前を僕らが奪い続けたのか――それは―、奪われた彼にしかわからないでしょう。

 これは、受け取ったものをそのまま僕らへ返しているに過ぎない。己の利益のための戦いでさえない。純粋な破壊です」


僕は、緩くなり始めたお茶を一気に喉奥に押しこんだ。喉が乾いて、仕方がない。


「彼は、鬼に転じてしまった」


懺悔をするような稲生の言葉にはもう、仇討ちを成し遂げたことへの恍惚は残っていなかった。


「――鬼から一番遠い世界に住んでいたはずの子供を、鬼にしてしまった。………鬼に変えたのは、僕です。僕たちであり、世間です。もう、誰か一人の力ではどうにもならない」


稲生はしばらくQの髪を撫でていたが、やがて決意したように立ち上がった。


「どこにいく」

「本物の尾崎幹部のもとに向かいます。あるいは、偽の彼女について行ってしまった諜報員の探索に。これ以上情報機関に混乱を生じさせてはいけません。

 …貴方がここへ来た時点で、僕が潜んでいる理由も無くなりました。すぐに発ちます」


そう言い残すと、刀と銃を定位置に収め、出ていこうとする。それからドアに手をかけたまま、稲生は静かに僕にいった。


「…貴方には。この話を聞いていただく必要がありました」

「何故」

「どうしてだろう。遺言かな」


皮肉屋はたっぷりに嫌味な笑みを浮かべ、「最期に何か聞いておきたいことってあります?」とだけ言った。

※→←パンドラの匣《四》



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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時

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