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こんにちは、赤の他人様《弐》 ページ17

尾崎幹部は懐から何か取り出し、背を向けたままこちらに投げ出した。


――それは、折り紙の『奴さん』だった。


僕のよく知る色とはかけ離れており、光を通さないほど黒く塗りつぶされている。


千代のあだ名を由来する、色とりどりの鮮やかな千代紙ではない。そんな染料を使ったとしても、ここまでの深い黒を煮出せはしない。


太宰さんの瞳の奥に横たわっていた、生に価値をなくした、昏い影のように。折り紙はどこまでも黒く染まっている。


尾崎さんが手を離せば、その折り紙は一瞬で姿を変えた。


病院で横たわっていた千代助そのものだった。


まるで別人だと錯覚した己の勘は、決して間違いではなかったらしい。


ーー髪分身。千代助の異能力が持つ力の一つ。


奴さんの折り紙に髪を一本でも挟み、千代が念ずれば、髪の持ち主とそっくりの姿形の幻を魅せる。



「……なるほど。僕が見舞っていた、病室に横たわる千代助は髪分身。

つまり、『薔薇の異能者』に誘拐された足立一之は偽物で、本物がこの施設に閉じ込められているはずはない。と。そう言いたいのか」


着物姿の背に問いかけても、返事はない。


「それでは、本物の足立一之はどこにいる。とまで聞けば、そろそろお前は怒りそうだな―――千代助」






「あ〜あ。いつまで女装させる気だよ」


背を向けたまま、【千代助】は答えた。


尾崎さんの演技を辞めた途端、見慣れた友人の姿に変わった気がする。


本物の尾崎さんはどこへ行ったのか。

Qの地下牢を破壊したのは誰か。

末端の構成員を指揮している首魁はお前か。

なぜ、中也さんを騙すようなことをしたのか。


本来なら聞かねばならぬことは幾つでもあったにも関わらず、僕の心は図らずも、健在だった友人との再会を喜んでしまっていた。


「いつもの色紙はどうした? 随分と色がくすんだ折り紙だ。趣味が悪い」


世間話の気配に、千代は泣きそうな笑顔で答えた。


「元々の紙の柄は、俺が作った折り紙に反映されねぇ。趣味悪いとか言うなっつの。柄に映し出されてるのは、【俺の心】なんだからさ」


聞き慣れた声より、少女めいた柔らかい声だった。



「この異能は少し変わっててさ。【俺の心理状態】がそのまま幻術の威力に反映される仕組みなんだよ。

 害意や敵意が強ければ強いほど殺傷能力が上がるし、心が穏やかだったら、威力はなくなっちまう。
その威力の目安として、折り紙の柄が変わるんだ」

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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時

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