こんにちは、赤の他人様《壱》 ページ16
背後から追ってくる警官を撒き、入り組んだ道を抜ける。
管制室、と書かれた扉の奥へ一気に突入すると内側から鍵をかけた。
銃弾を豆鉄砲ほどの威力に弱める鉄扉だが、防御力がかえって警官側の仇となったらしい。
乱発される銃弾は、部屋の内側まで貫通しなかった。
床にはすでに事切れた軍人が転がっている。画面上に映し出された、監視カメラを通じての映像も同様の有り様だ。
尾崎幹部が、皆殺しにしたのか。たった一人で。
「ここも保って15分じゃろう。少しは落ち着いて話が出来る。……非常口までの道は既に用意してあるのじゃ。歩きながら話そうかの」
着物を翻して向かう先には、通気口と思わしき穴がある。
通常の出入り口が封鎖される可能性を講じ、逃走経路を用意する周到ぶりに、僕は本来安堵すべきなのだろう。
「いえ」
――しかし穏やかな提案に、僕は頷くことはできなかった。
「千代助がこの施設に居ないと、何故貴女は判る」
「……どういう意味じゃ」
「貴女は一度、僕を欺いている。そのことをお忘れになったと?」
壁一つ向こうで響く銃声を、恐ろしいとは思わない。
それよりも今の脅威は、目の前に立つ『尾崎幹部』に他ならない。
「千代助が誘拐され、この軍用施設にいることは把握している。その手引きをしたのは尾崎幹部、貴女だったはず。
そして。足立一之が目の前で拐かされていくのを黙って見ていろと、中也さんに指示を出したのも貴女だ」
「……では、お前様は。幹部の命令すら逆らい、ここへ来たというのか。足立一之を、助けるために」
「当然だ。窮地にある友人を見捨てる者がどこにいる」
管制室の外で響いていた怒号が遠のいた気がする。
大津波が起きる数分前に海は凪ぎ、引き潮が発生するように。この沈黙の先には嵐が待っている。
「……友人? お前、本気で言ってんのか?」
立ち去るべきだ。一刻もはやく。
しかし、静寂を破ったのは銃声ではなかった。
「―――はは、あはははは、」
女の甲高い哄笑である。尾崎幹部は堰を切ったように笑いだした。
「アッハハハハハハ!! ああ、それはそれは、悪いことをした! お前は……思いの外、仲間を大事にする方だったか」
少し顔色に哀しみが浮かんだように見えたのは、気のせいだろうか。
尾崎さんはきらびやかな着物を翻して、背を向けてしまった。
「だが、無駄足だったのぅ」
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時