前哨戦《参》 ページ26
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“己の意志で暴力を振るうのなら、それはどんな残虐も人間らしさの一面なんだろうけどさ”
不意に蘇った言葉が、安吾の視界を滲ませる。
「彼らしさ、ですか。この一面も」
通信から返ってくる声は無慈悲だった。
『あぁ。あれも足立なんだろ。……なにせ、復讐に興じる相手ができちまったんだからよ。今までやってこなかったことを実行に移しただけだ』
安吾はひたすらに高台を目指して走った。
皮肉にも、軍警が用意していた電波のジャミングが、初動を遅らせている。
早急に電波が届く場所へ移動し、警察組織に代わって 動けるはずの
『勝手に俺等んとこの餓鬼をおちょくって、暴走させた挙句に言うことがそれか?』
通信が繋がった相手は、中也だった。
安吾の懇願に鼻で笑うように一蹴する姿勢を示すが、早急に現場へ向かっていることを伺わせる。
「いえ、失礼。……座標を端末に送信しました。
被害状況は把握できていませんが、現在あるだけの情報は、ありったけ全てを送ったつもりです。
もちろん、貴方たちの諜報員と思われる生命反応もいくつか残っています。そちらは地図をご覧ください」
安吾は唇を噛んで、中也らしい誠実さに応えた。
しかし中也もまた、安吾という人間本来が持つ実直さを知らないわけではなかった。
生命反応の送信は、味方の回収だけを遂行し、帰還する選択肢を中也に与えてしまったことになる。
この情報送信がどれだけのリスクを伴うことか、情報員の安吾は誰よりもわかっているはずだ。
それが安吾の誠実であることを、中也は何も言わずに察していた。
これまでの荒業は全て、組織人としてあるべくしてのこと。
彼は組織という場所から抜けた個人であれば、愚直なまでに正しい男だった。
『……もういい。さっさと地下に潜れ。死ぬぞ』
「いえ。まだ情報の送信が残っています。ここで僕が退く訳にはいかない」
『ァア?!頭沸いたか!!!今ンなことほざいてる場合じゃ―――――――』
地響きがして、北西、七八百メートル辺りのところに黒煙の柱が立ちのぼった。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時