菩提樹下の逍遥《弐》【文/ス/ト】

こんにちは、赤の他人様《六》 ページ21

――僕はこの男が抱えていることのうち、何割を知り得ているのか。


なぜ天上から天下までを敵に回し、マフィアを叩き潰そうとするのか。


失った子供達の弔いだけで動いているとは到底思えないが、真に奴を動かす怨讐の正体も掴めない。


「動機をお喋りする気は？」

「ねぇよ」

「だろうな」


話したところで、お前には理解できないだろ。と打ちのめされる前に次の質問に移る。


「ならこれだけは聞かせろ。ゴールはなんだ？」

「特務課の焼却。ついでにマフィアと軍警の破壊」


魔王にでもなったつもりか貴様。と常であれば茶化してやるところだが、それが出来ないのは奇妙な凄みのせいか。


これまでに流れた血の量は尋常ではない。千代助は本気だ。


「…お前は何しに来たの？」

「連れ戻しに来た」


間髪を入れずに僕は答える。


千代は銃を弄びながら冷笑を浮かべた。


「ありがたい申し出だけど、こんなところで油売ってて良いとは思えないけどなぁ」


千代は、どこか遠くを睨み付けながら講釈を垂れた。


「突然だけど問題です。日本は兵器や兵隊を持っても良い国でしょうか」

「いや。敗戦国ゆえ、表向きには『警察』としてでしか兵隊を置けないことになっている」

「その通り！ この国には兵器も兵隊も存在しない。代わりにおいてるのは“軍警”と、彼らに装備させる“防具”だけ、ということになっている。便宜上はな。

　だから表立って他国に喧嘩を売れるほどの力はないし、暴力を暴力で制圧するほどの力にも欠ける。

　ヨコハマの治安がゴッサムシティ並みに悪いのは、軍事力が低いせいだ」


僕は周囲を見渡した。警察の施設であるはずだが、どう見ても軍事施設としか思えない。軍警の存在そのものがグレーゾーンであるのもうなづける。


「アメリカとソ連が軍縮のために定めた『中距離核戦力全廃条約』に倣って、日本の軍警はいわゆるミサイルと呼ばれるものを持っていない。

　だが武力を最小に留める努力をしてる訳じゃねえ。

各国の軍縮条約の規定を守り、限られた中でも最大限の兵器を所持しているんだよ。

例えば――魔都と化した国内の港町を、街ごと制圧する兵器とか」


兵器、軍警。その単語と軍事施設が、不意に一致する条件を果たしていることに気がつく。


僕が二の句を発する前に、修羅は紅唇をひいて微笑んだ。


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