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やがて花火が上がり始めた。ひとつ。ふたつ。夜闇のなかに花が開くたび、あちこちで歓声が上がる。
「こんな後ろだけど、先輩はちゃんと見えてる？ おれは背高いから全然見えるけど」
「ええ、大丈夫よ。ちゃんと見えてる」
お喋りをしていたときのまま、二人は並んで花火を見ていた。ロスティスラーフの司会には、花火だけでなく人ごみも一緒に収まっていた。――なんだか、これがいい花火の楽しみ方な気がしていた。花火。平和な時代、人々を楽しませるため、夜に一瞬だけ花開くもの。人に愛されるためだけに咲く花。そして、それを愛する人々は、一瞬の輝きを永遠にとどめようとする。カメラを持った手が人ごみの中から伸びていた。
「……滑稽だわ」
「ん？」
呟きのような彼女の声を、ロスティスラーフの耳は拾った。
「一瞬で消えてしまうから、いいものなのに」
ロスティスラーフは何のことだか掴みかねていたが、構わず彼女の発話は続く。
「どうせ、花火なんて来年も上がるんだから。――そのとき思い出せばいいの。これまで花火とともにあったもの、全部。写真に納められたものを見たって、思い出せるのはそのときの輝きだけじゃない。待ち焦がれた気持ちも、香りも、次への期待も、思い出せやしないんだわ。それ以外、全部忘れてしまう」
彼女が手に込める力が強くなった。小包の角へ皺が寄る。
「でも大丈夫。もう、私は忘れなくなるもの」
「先輩……？」
隣にいるロスティスラーフのことを忘れているかのように、花火は呟いた。
「十」
十。何の数？ いま上がった花火、十発目だっけ？ 思い出してみるが、思い出せそうにない。
「九」
あれ、数が減った。じゃあ花火の数じゃないのか。何の数だろう。
「八」
花火は、胸に持っていた小包をもう一度強く抱きしめた。
「七」
ロスティスラーフの視界に影が走る。花火が、彼の前を走り抜けていた。急に何か用事でも思い出したのだろうか。
それにしては。気づけば、ロスティスラーフも緩慢ながらその後を追っていた。
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