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うーんうーん、と唸ったあとで、ロスティスラーフは返した。
「……あの！ 全部おれが買うけど、そのまま三人で分けっこってできませんか？ 他にお客さんいないし、おれだけ、っていうのも居心地悪いし……」
彼の返事で、トーマンは先ほどの安心感が分かった気がした。こんな風だからだ、いつも。自分に善意が与えられるときは。この善意を返すためには、笑顔で「喜んで」と言えばいいだけなのは知っている。かつて昇華隊の隊員として活動していた頃は相手の好意によくつけこんでいたものだ。ほとんどなかったが――もし、それで罪悪感を覚えたときには、よく唱えていたものだ。でも、相手も本望だろう。好意を抱いている人間に対して何か尽くせるのなら。自分もそうだ。
けれど人はときどきこうやって、好意とかではなく単純な善意で働きかけてくることがある。好意を仕事に替えることをしているうちに、そういう感覚にどうも居心地悪く覚えるようになってしまったのだった。
とはいえ、いま仕事としてやるべきことは目に見えている。いいんですか？ そう、笑顔で返そうとした瞬間だった。
「お、いいんすか？ ま、せっかくなんでお客さんが一番大きいやつもらってくださいね。切ってきます」
そう言いながら、目の前のチーズケーキへ、雪はナイフを入れた。予想していなかった展開に、反射でトーマンは問う。
「セツ、貴方さっき……」
「ん？ そりゃあ四分の一は食べられませんけど……」
自分の分を新しい皿にサーブしながら、雪は答えた。
「一切れ分くらいなんてことないすよ。むしろ役得。私のチーズケーキ、絶品なんで」
「え！ 絶品なんですか？！ おれ、ついてるかも」
嬉しそうなロスティスラーフの声に、雪は「そうそう、お客さんラッキーすね」と平然と返す。
やがて、三人分のチーズケーキがそれぞれへ行き渡る。ひとくち。ロスティスラーフは口に入れるなり、幸せそうに言った。
「すっげえ美味い……ですね？！」
「いい舌持ってますねお客さん」
「はい！ 何だか、このチーズケーキのおかげで……」
次に刺したフォークは、ケーキの残り半分を持って行く。
「その分、人に優しくできそう」
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