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A peace of cake ページ19
いきなりの大雨だった。通りには、カバンを頭に当てて走る人が目立つ――が、その中に一人、カバンを庇うように抱えて走る青年がいた。ロスティスラーフだ。ごめんなさい！ ちょっとだけ！ そう詫びながら店の軒先に少しお邪魔した。扉の札には「CLOSED」とかかっている。
『この時期だからちゃんと傘持ってけよ』
『うん！ 分かってる！』
返事だけは良かった昨晩のやり取りを思い出す。手紙を届けた後なのは不幸中の幸いだった。しかし、と軒先から少し頭を出して空を覗く。真っ黒な雲が視界の限り続いていた。さて、これだと、いつ出発できるようになるのやら。
「ちょっとおにーさん」
「はい！」
いきなり横の扉が開いた。現れたのは、雨の湿った空気感が似合う、店主と思しき女性だった。ロスティスラーフは驚いて半歩飛びのく。
「お、いいお返事。ひどい雨っすね、雨宿り中？」
「えーと……勝手に軒先借りちゃってごめんなさい……。すぐに出ます……」
そう彼が動こうとすると、いーのいーの、と彼女は引き留める。瞬間、タバコの匂いがふわりと漂った。雨で湿気る分、いつも以上に場に、人に留まるらしい。
「雨でだるいし今日はお休み、と思ってたんすけど、バイト……っていうとちょっと違うか……。まあ、開けなきゃならなくなったんで、どうせなら雨宿りがてらどうすか？ 安くしときますよ」
そして、雨は人も留める。
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