死の罠−１ ページ9
｢ディーノさん！｣
職員室に戻り、私は息を呑んだ。
真っ青な顔をしたディーノさんの左腕に、点滴が刺さっている。
上に吊るされた点滴パックからチューブを伝い、毒々しい黄色の液体が滴り落ちているのだ。
｢跳ね馬、しっかりしろ！
今、コイツを抜いてやっからな！｣
注射針へと手を伸ばすベル君に、ディーノさんは右手をゆっくりと上げ、ベル君の手に触れた。
ひび割れた唇から、掠れた吐息にも似た声が漏れる。
けれど、それはあまりにもか細くて、私達の耳には届かない。
私はディーノさんの声を聴こうと、耳を澄ませる。
｢その点滴を、外さないでくれ。
これは、解毒剤だ｣
切れ切れに響く小さな声の内容に眉を寄せ、ベル君に伝える。
｢解毒剤？ どう云う事だ、跳ね馬！｣
｢男が来て、俺にまず、毒薬を注射してから、その点滴を、打ったんだ｣
｢どうしてまた、そんなまどろっこしい事｣
｢あくまでも俺の想像だが、意識を戻した俺、若しくは、お前達みたいな、善意の第三者に、俺の点滴を抜かせ、間接的に、自 殺、または殺人を犯 させる事。
それが、目的だったんじゃ、無いかと……｣
ディーノさんは其処で一つ、苦しげに息を吐いた。
だがその瞬間、パツリ、と放送のスイッチが入る音が響いた。
｢あーあ。侵入者を使って、俺の本気を見せてやろうと思ったのに。
侵入者がこの点滴の知識を持っていたなんてな。
まあ良いや。お前ら以外の人間を、それぞれの罪に見合った死刑場に送る準備は整った。
憤怒にその日を送る大空ザンザスは、彼の心と同じ、冷たく暗い場所に囚われ。
己が内の嫉妬にがんじがらめになっている雷門レヴィは、窓の無い場所で息を詰まらせ。
人を利用する事しか考えない天霧マーモンは、己が姿を描かれる場所で助けを待ち。
己の後ろにある犠牲を知らない時雨スクアーロは、その傲慢な仮面を水に押し流される。
しぇしぇっ。お前らには、アイツらを助ける事が出来るか？
これは、俺とお前らの知恵比べ、とも言えるな。
精々必死な姿を、俺に見せてくれよ｣
愉快に言い退けるジル君に、ベル君が辛そうな息を漏らした。
｢なんで俺だけを残しておくんだ？｣
｢そんな事、決まってんじゃん。
お前は俺の大切な弟。
そして姫は俺の幼馴染であり、弟の大切な存在｣
拳を握り、わなわなと震えベル君を、ジル君はクスリと笑った。
｢お前達の活躍、楽しみにしてるわ。
じゃあな｣
含み笑いの余韻を残し、放送は途切れた。
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作者名：ポアンナ | 作成日時：2018年3月17日 13時
