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．
「……結婚したい、相手？」
俺の言った言葉を反芻して
翔さんは、やっと意味を理解したというように
顔を強張らせた
「いないなら、お見合いという手段を使って探すのは
翔さんが幼い頃のトラウマを克服するためにも
悪い方法ではないと、思います」
気持ちとは裏腹の言葉を
すらすらと並べていく
本当の気持ちは、絶対に口に出してはいけないから
「マイさまが勧めてらっしゃるからには
悪い相手ではないのだと思いますし……。
でも、翔さんが乗り気でなければ
無理にお見合いをすることはないのでは、と」
思います、と続けようとして
感情が溢れ出てきそうになって
言葉を止めた
最後に思わず付け加えてしまった
自分の本音のカケラ
翔さんのことを想っているフリをして
自分が翔さんと離れたくないからって
……そんなことであなたを縛っちゃいけないことは
十分にわかっているけれど
「いるよ」
それまで黙っていた翔さんが
ふいに俺をまっすぐに見つめてそう言った
一瞬意味がわからなくて
翔さんの視線を受け止めたまま
一回二回と、瞬きをする
「結婚したいって、ずっと昔から
想ってる相手が、いるよ」
「……どなた、ですか」
自分でも、みっともないほどに
声が震えていることがわかった
「では、マイさまにも
そのようにお伝えすればよいのでは……」
「お前はどうしてほしい？」
「……今、何と？」
「俺はお前とずっと一緒にいたい、けど
お前は、どうしたい？」
「すみません、意味がよくわからなくて」
「俺が結婚したい相手は、潤しかいない」
そう言われて、身体が勝手に動いた
少しだけ背の低い翔さんの肩を
黙って引き寄せる
さっき、カッコいい告白をしたくせに
俺の返事が怖いのか
表情はまるで捨てられそうになっている小動物みたいで
「俺が翔さんに仕えようと思ったのは」
そこで言葉を切って
柔らかな髪の毛にそっと口づける
あなたはくすぐったそうに身じろぎして
それから、頬を緩ませる
「どうしようもなく、あなたを想っていたからですよ？」
きっと、この選択は間違っている
だけど
あなたが隣にいてくれるのなら
俺は迷うことなく堕ちていける
ふたりなら、どこまでも
堕ちていける……
．
【髪:想慕】
恋しく思い、心から慕うこと
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作者名：storm quintet x他4人 | 作者ホームページ：.
作成日時：2014年10月29日 23時
