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「着いたよー」
いつのまにか寝ちゃった翔ちゃんに声をかける
いきなり起こすのもかわいそうだし
そーっと揺すってみたんだけど
全然起きる気配がない
「どーしよっかなぁ」
砂浜がすぐ近くに見える
まだ明け方だし
海水浴の季節でもないから人の姿はなくて
車の窓を開けて
澄んだ空気を吸い込んだ
翔ちゃんは、俺のかけるCDに合わせて
鼻歌を歌ったり
他愛のない話にたくさん笑ってくれたり
ときどき窓の外を眺めていたりした
俺にとってはこの上なく幸せで
……だけど届かない距離を
思い知らされる時間で
「……翔ちゃん」
やっぱりまだ眠いんじゃん、なんて呟く
つい昨日まで彼は
大きなプロジェクトの準備に追われて
一睡もできないでいた
そんな翔ちゃんを少しでも休ませてあげたい
いつだって人一倍頑張る翔ちゃんは
俺の前ではちゃんと弱いところも見せてくれる
なんて
俺の、ただの思いあがり
「好きだよ」
翔ちゃんの目にかかった前髪をかきあげて
額にそっと、唇を近づけて
……音もなく、触れる
額へのキスは"友情"を表す
これくらいなら、許されるかな
「友情、だからいいよね、
恋愛感情、じゃないから」
言い訳がましく呟いてみる
唇から嘘が溢れる
さっきからうるさい心臓の音が彼に聴こえて
起こしてしまわないうちに
前髪を元に戻して、シートに座り直す
「翔ちゃん、ついたよ」
もう一度翔ちゃんを起こすと
ゆっくりと彼が目を開けた
大きく、少し潤んだ瞳が俺を見つめて……
「友情、のキス……」
なんで、どうして
翔ちゃんがあのキスの意味を知ってるの？
「……起きてた、の？」
「うん、ごめん」
形のいい眉が少し下がって
ぷっくりとした唇から、言葉が零れる
それだけで、息が止まる
「……雅紀の気持ちは、そのキスの通り？」
哀しそうに吐きだされた
言葉の意味に気付くまで
あと、数秒―――
.
【額:友情】
友達の間に生まれた愛情
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作者名：storm quintet x他4人 | 作者ホームページ：.
作成日時：2014年10月29日 23時
