File63 成実医師の証言 ページ19
「その証拠にこのドアからピアノの所まで何かを引きずった跡が床に残っているし……。『川島英夫』村長候補の背中には泥や砂が付着しているわ……」
そう言って「ボウヤ、パス」という言葉を込めてボウヤの方を向くと、ボウヤはテープレコーダーの方へ向かいながら話し始めた。
「そして、海に通じるこのドアやこの部屋の全ての窓に内側から鍵が掛かっていた点と……『月光』の入ったテープの頭、数分が空白になってる事から見て……」
ボウヤは途中で切ると、さっき私がした事と同じように私の方に自信満々の顔を向けて、「琳佳さん、パス」と小声で言った。その言葉を受けて私は立っていた窓の傍から部屋の真ん中へ移動した。
「こ、こいつらいつの間に……」
「おそらく犯人は今日、ここで行われた法事の最中に、『川島英夫』村長候補を海に連れ出し溺死させ……。死体をこの部屋に運んだ後に鍵を閉め、テープレコーダーのスイッチを入れてこの部屋から廊下に出たのよ」
そこまで話し終えてからボウヤの方を向くと、ボウヤはいつの間にか隣に来て話し始めた。
「この部屋のドアには鍵が掛かっていたとすると、公民館の玄関には僕達がいたから……。犯人はこの部屋から出た後にもう一度法事の席に戻った可能性が高い！ それとも、誰かどこかへ行ったっ切り帰って来なかった人でもいる？」
「ちょ、ちょっと待ってよ……。じゃー、犯人はまだこの中にいるかもしれないって事！？」
「まぁ、この騒ぎに乗じて逃げて無ければね」
毛利探偵が法事に来た人達の方に目を向けて質問した。ザワザワと騒ぐ冬眠達は相変わらず落ち着きが無いわね。
「川島さんが法事の部屋から出たのを見た方は？」
「あ、ああワシだ……。確かトイレに行くと行っとった……。中々帰って来んから心配しとったが……」
「では川島さんの次に部屋から出た不審人物を見た方は？」
周囲が騒ぐ中、少し離れた所から女の声がした。「あ、あのー……」と小さく漏らしている。……成実医師ね。
「私、知ってます……。川島さんの後に……すぐ部屋を出てった人を……」
成実先生がそう漏らした途端、毛利探偵が成実先生の肩を掴む。それを見て成実先生もびっくりしていた。
「だ、誰ですかそれは一体!?」
「わ、私です……」
「はい？」
「私もトイレに……」
成実先生本人がトイレに言ったのね。それなら『知ってる』なんで勿体ぶらないで早く言えばいいのに。
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作者名：櫻咲翼遥 | 作成日時：2016年12月18日 15時
