伊野尾先生と僕。【2】 (ページ6)

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決別ページ6

俺の意思を強く示すように、彼女の目を真っ直ぐ捉えて話を続ける。

「でも。そのお金は、知念のご両親が知念のために...愛する息子のために残した、最後の形ある愛です。だから、そのお金は他の誰でもない、知念のものなので、誰にも渡すことはできません。」
「っ？！」

何も返す言葉が見つからないのだろう。
怒りと羞恥からか鼻息が荒い。
もうきっと何も言ってはこないだろうと、先を続ける。

「その辺のことも含めて、また後日改めて書面で報告させていただっ.........うぉっ？！」

話し途中で、いきなり背中にドンッという衝撃とともに強く腰に回された腕とじんわりとした温もりが伝わってくる。

「...びっくりしたぁ....、なに、どうした？」

紛れもなく知念だ。

「知念？どした...？」

何を聞いてもただただぎゅーっとしがみついてるだけで何も反応してくれない。
回された腕をポンポンと「わかったよ」という気持ちで撫でる。

「帰ろっか。」

そう言うとようやくコクンと頷く反応をしてくれた。

「そろそろ失礼します。遺産のこともあるので、後日また法律事務所経由で書面にて報告させていただきます。.......知念、ちゃんと言うことあるでしょ？」

背中に張り付いていた彼を優しく剥がし、そっと半歩前へ送り出す。
俯いたまま、微かに震えているそんな彼の背中を「大丈夫」と言うように摩ってやると、小さく深呼吸をして彼女に向き合った。

「今まで面倒を見てくださりありがとうございました。お元気で.....さようなら。」

とても深い一礼をし起き上がった彼の顔は、とても強く凛としていて...だけどとても穏やかだった。

「行こっか。」

リビングの扉へ向かう中、俺はどうしても彼女に言っておきたいことがあったので、先に彼をリビングから出すと彼女へ振り返る。

「一つ訂正しておきたいんですけど。」
「なに。」
「顔“だけ”は可愛いっていうのは間違いで、知念は顔“も”可愛い、なので。」
「....。」

「それじゃ」と、もう二度と会うことはないであろう彼女に一礼し、その家を後にした。

自宅に戻る車中、FMラジオをBGMに言葉を交わすことのない時間が続く。
助手席では走り出してからずっと、窓の外を眺めている彼。
何か思うところがあるのだろう。
取り敢えず、声を掛けずにそっとしておく。
ふとラジオから流れてきた曲は、俺の好きな『let it be』。
思わず一緒に口ずさむ。
曲が終わると語りだすDJに、相変わらず心地良い声だなと内心で呟く。