伊野尾先生と僕。【2】 (ページ47)

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好きな人？ページ47

「それじゃ、俺たちそろそろ帰るわ。」
「おう、また近々連絡する。」
「伊野尾くん、お昼ご馳走さま。またな、知念。」
「高木さん、薮さん、また遊びに来てね。」

日も暮れ始めた頃、家庭のある薮とこれから仕事だという高木を二人で見送る。
賑やかだった家の中が急に静かになった。

「知念、初めてのお客さんで疲れたんじゃない？あー、今からまた夜作るの面倒くさいし、今日は出前でも取ろっか。何がいいかなぁ。」

見送ってから一言も話さない彼が少し気になり声を掛けるが「ん。」と返事をするだけだ。
取り敢えず「なんか飲む？座ってていいよ。」とソファーに促す。
自分のコーヒーと彼用のミルクティーを入れると、それを持って彼の隣に「よいしょ」と座る。

「はい、どうぞ。」
「....ありがとう。」

カップを手渡しながら彼の様子を伺う。
長い睫毛を伏せたまま、両手でカップを包み込むように持ちほんの少しだけ口をつける。
明らかに元気のない彼に「どうしたの？」と優しく問い掛けてみる。

「......高木さん.....ホントカッコいいね...。優しいし...声までカッコいい...。ね、伊野尾先生。」

口を開いたかと思えば、なんの脈絡もなくいきなり高木の話。

「え？高木？...まあ、そうだな。カッコいいよね。」
「うん...。」

そこからまた少し沈黙が続いた後、再び持っていたミルクティーを静かに一口飲み込むと、それをコトリとテーブルに置いてゆっくりとソファーの上で膝を抱える。

「.......伊野尾先生.......、高木さんのこと、好きなのかなって思った。」
「...ええ？！なん、で...」

驚きすぎて一瞬思考が停止した。

「伊野尾先生...、高木さんと話してる時ね、すごく優しくて嬉しそうな顔になるの...。高木さんを見てる時の伊野尾先生....、嬉しそうなの。」

俺は手に持っていたカップを落としそうになり、慌ててテーブルに置く。

「...そっ、そんなことないよ。普通だよ普通。」

ドキッとした。
昔の心の奥底を見抜かれたような感じがして、動揺してるのが自分でもわかる。
それをも見破っているかのように彼はチラッとこちらに目線を送った後、まっすぐに前を見つめる。

「僕、ずっとずっと、先生のこと見てるからわかるの。......ふふ.....、そっかぁ......。さすがに...高木さん....には、勝てないな.....僕..。」

えへへとこちらを向いて笑った顔はとても切なくて、今にも溢れそうなほど涙を溜めた目が綺麗な弓を描くその姿は、ハッとするほど綺麗だった。