伊野尾先生と僕。【2】 (ページ46)

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親心の嫉妬ページ46

「知念！今どこにいんの？！......うん、......そうなの？......そっか良かった。なかなか帰って来ないから心配した.....。うん、わかった。」

電話を切って「はぁー。」と大きな溜息を漏らすと、「知念なんて？」と高木が心配そうに聞いてくる。

「...帰り道、綺麗な紫陽花がいっぱい咲いてて、ちょっと散歩してたって。」
「ほらみろ。伊野尾は心配し過ぎなんだよ。」

散歩してた。
その割には寂しそうな声に聞こえて。
その言い訳に俺は若干納得いかなかった。

「....なんかさ、声に元気なかったように感じた。」
「まあ......それはお前の所為だろうな。」

薮は再びサッカーを観ながら、サラッと気になることを言ってのける。

「なんで俺の所為？俺なんかしたっけ？」
「さあなー。まあ、帰ってきたらちゃんと話し聞いてやったらいいんじゃねーの？」
「んだよ、なんか知ってんなら教えろよ。」
「俺は関係ねーだろ。本人に聞けっ。....おお！入ったー！！！！ゴーーール！！！」

俺に話には興味がないというように、サッカー観戦に熱が入る薮を横目に、「俺の所為？」と高木にも聞いてみるが、「さぁ、俺はわかんない。」と肩を竦められた。
薮と二人で話してる時に何か聞いたのだろうか。
俺が知念に何かしたってことなんだろうか。
考えても考えても思い当たる節がなくて、取り敢えず帰ってくるのを待つことにした。

「ただいま...。」

それからさらに三〇分ほど経って、漸く知念が帰ってきた。

「知念っ、お帰り！遅かったね。」

声が聞こえて急いで玄関まで迎えに行くと、彼は一瞬驚いたようにこちらを見てから、「ん...、散歩してたらちょっと道に迷っちゃった。」と言ってスッと目線を外した。

「知念...？」
「手、洗ってくる！まだ高木さんと薮さんいるよね？」

先程の表情とは打って変わって、いつものようにニコニコ笑顔の彼が元気よく中に入って行った。

「お、おう....。」

彼の初めてな態度に戸惑いを隠せない。
俺...やっぱりなんかしたのかな..,。
リビングでは、「おお、侑李ー！遅かったじゃねーか。待ちくたびれたぞ。」なんてヘラヘラした薮の声が聞こえる。

「薮め...,俺の侑李だぞ.......。って、俺のじゃねー。」

“俺の侑李”と無意識に呟いたことに驚く。
ああ、これも一種の親心なんだな。
自分以外のの誰かに懐いてるのをみると親心が嫉妬する。

「そういうことだな。」

そうじゃないだろ。
と頭の隅で思っていても、それに気づかない振りをする。