伊野尾先生と僕。【2】 (ページ34)

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理由ページ34

「ちょっと、薮くん。少し落ち着こう。」

高木が薮の肩に手をポンと乗せて宥める。

「んだよ、呑気に落ち着いてられっかよ...。一ヶ月だぞ？一ヶ月俺たちに何も言わずにいたんだぞ？その間、顔だって合わせてたし連絡なんてもっと取ってた。なのに何も言ってくれねーとか。親友じゃねーのかよ。」
「薮くん...。」

ああ、そうか。
俺が良くなかったのか。
もっと早くちゃんと二人に言えばよかったんだ。
きっと薮は、知念を預かってること自体よりも、それを一ヶ月も言ってくれなかったことにムカついてるんだ。

「薮、ごめん。高木も。...もっと早くに言えばよかったよね。言い訳かもしれないけど、本当に色々バタバタしてて...それにちゃんと会わせて報告したかったから.....ほんとごめん。」

椅子からスッと立ち上がり二人に頭を下げる。
「い、伊野尾くんっ、頭上げて」と焦ったような口調であたふたしている高木を横目に「はぁぁぁ」と大きなため息を吐く薮。

「俺たちに怒られるとか縁切られるとかでも思ったか。」
「違うっ。そういうわけじゃない。」

立った状態の俺を見上げるような形でジロリと睨みながらそんなこと言う薮に、慌てて否定する。

「じゃあなんで黙ってたんだよ。会わせて報告したいっていうのは最近思ったことだろ？」

さすが...鋭い。
確かにそうだ。
会わせて報告したいって思ったのは、結子含めて四人で会った後だ。
それまでにでも話す機会はあった。
特に薮とは電話で普通に話もしていた。

「黙ってた....訳じゃない...。」

そう。
意図的に黙っていたわけではない。
言わなかったんじゃない。
言えなかった訳でもない。

「どういうこと？」

高木が優しい口調で「伊野尾くん、座りな？」と促してから聞いてくる。

「どういう....っていうか.....、その.....わす、れてた...っていうか.......。」

言わなかった、言えなかった理由なんてない。
ただ単に...。
知念以外の存在を忘れてたのだ。
忘れてたと言えば語弊があるかもしれないが、ただ、知念との生活がバタバタしていたことも含め楽しくて穏やかで、それ以外を考えることがほとんどなかったのだ。
電話があって思い出す。
ラジオの声で思い出す。
そんな一ヶ月だったのだ。

「....ごめん。最初に色々あり過ぎて...それが落ち着いたら、なんか....すごく、穏やかで楽しくて.....だから....」

ポツリポツリと話す俺を見て、きっと居た堪れなくなったんだろう。知念がガタッと音を立てて立ち上がる。