伊野尾先生と僕。【2】 (ページ18)

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綺麗な思い出ページ18

「たまにラジオ聴いてる。相変わらず良い声だなって。」
「えー？！聴いてくれてるの？嬉しい！」
「車に乗った時とか、いつも高木の声流れてくるよ。どんだけラジオの仕事してんだって思って笑ってる。」
「あははは、そこ笑うとこー？...あ、伊野尾くん、動かないで。」

そう言うと高木はゆっくりと俺の方に手を伸ばしてきた。

「え...っ、なに...っ。」

俺が一瞬身を引くと「待って」と言って俺の髪をふわりと撫でた。

「取れた。伊野尾くんの髪に糸付いてたよ。」

ほら、と見せてくれた糸くず。
そんなことより、俺は自分の心臓が若干ドキドキしてしまったことを隠すのに必死だ。

「...相変わらずチャラい。」
「えー？心外だなぁ。傷つくわぁ。」

絶対に傷ついてないだろう顔をしてそんなことを言った後、また優しい笑顔をくれる。

「ばーか...。」

俺は憎まれ口を叩きながら運ばれてきたコーヒーを口にして、昔のことを思い出していた。

高校三年の夏休み、薮と三人で花火大会へ行く予定だったが、薮が数日前に「彼女ができたから彼女と行く」と言い出して、結局高木と二人で行くことになった。
俺はすでに片思いしてたからすごく嬉しかったのを覚えている。
俺たちは高木が教えてくれた穴場へ行った。
本当に誰もいなくて。
喧騒から離れて心地いい風が吹いていて、花火もすごく綺麗に見えて。
気持ちも昂ぶって...そんな雰囲気だったんだろう。
一度だけ。
たった一度だけ。
そこで...花火を背景に、高木とキスをした。
後にも先にも、同性とキスをしたのはその一度だけ。
その後人混みまでの数分間、手を繋いで帰ったっけ。
結局、それは若気の至りみたいな感じで、お互いそれに触れることなく高校卒業して、大学生の頃には会う回数もめっきり減っていって、お互い彼女を作ったりもして.....高木の中では、なかったことになってるのだろうか....。
別に今、高木をそういう意味で好きかと問われれば、答えはNOだ。
今では本当に恋愛感情で好きだったのかも定かではない。
思春期にある興味だったのかもしれないし、本当に好きだったのかもしれない。
ただ、紛れもなく高木に恋をしていた。
だから俺にとっては...すごく綺麗な忘れたくない思い出だ。

「伊野尾くん、変わらずかわいいね。」
「へ？」
「高校の時から変わらない。」
「...高木はずっとカッコいいよ。」
「え？」
「高校の時からイケメン...。」
「ちょっと！そこで甘い空気漂わせるのやめてくれません？お二人さん！」