伊野尾先生と僕。【2】 (ページ11)

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雑貨屋巡りページ11

「伊野尾先生はこっちとこっち、どっちが好き？」

知念と二人、街に出て「友達が教えてくれた」というお洒落な雑貨屋で、先程からいろんなマグカップを指しては俺にどっちが好きか聞く、という作業を繰り返している。

「ねえ知念。さっきから俺の好みを聞くけど、知念の好きなやつでいいんだよ？」

もしかしたら家に置くものだからと俺に気を遣ってるのかもしれないと思い、そう言ってみる。

「え？あ、いや、うん、そうだよね。えへへ。」

なんだか歯切れの悪い答え。
何か知られては困るようなこと隠してるのか？

「知念はどれが好きなの？」
「え？僕...？」
「そう、知念。どれがいい？」
「えっと.....僕は...よくわからないかな...。」

曖昧な返事。

「知念のもの買うんじゃないの？」
「えっと...、ただ見てみたかっただけで....その、聞いてみただけで....。」
「そうなの？雑貨屋巡りみたいな感じ？」
「そ、そう！それそれ！」

あーもう、嘘が下手だなぁ。
まあ、でも、ここは俺が大人になってその嘘にのっかってやるよ。

「そっかそっか。じゃあ他にもどっか近くの雑貨屋行く？」
「え？あ、うん！行きたい！伊野尾先生知ってる？」
「まあ、少しくらいなら。」
「伊野尾先生のよく行くお店、行ってみたい！」

目をキラキラ輝かせて俺を見上げる。
これには嘘は感じられない。
「じゃあ、行こいうか。」と“友達”とやらに教わった雑貨屋を後にし次の目的地へと向かった。

しばらく他愛のない話をしながら歩くと、喧騒から少し離れた小道に入る。
また少し道を進むと、住宅街の中に構える小洒落た雑貨屋に着いた。

「わあ......。やっぱり伊野尾先生オトナなんだね...。」

きっと高校生が来ることはないだろう雰囲気を醸し出している雑貨屋の前で佇む彼。

「なんだそれ。ほら、入ろ？」

彼の言動がおかしくて、笑いながら店内へ促す。
中には一点ものの雑貨や小物がセンス良く飾られている。
彼は店の中をキョロキョロ見渡しながら、ゆっくりひとつひとつその売り物を見ている。
しばらく自由に見せておこうと、俺は少し違うルートで店内を回る。
実はこの店にずっと気になっているマグカップがあるのだ。
一点もの故、ここへ来る度にまだ陳列されているかを確認してしまうのがもう癖となった。

「お、あった。」

別にそんな高いものでもないので買えばいいのだけれど、マグカップ一つだけを買うのがなんだか少し小っ恥ずかしくて、ずっと買えないでいる。