ピアノとバレー (白布 賢二郎) 3

視界 ページ15

ゆら、とまた視界がずれる。



身体が後ろに倒れていく感覚。




白「え、ちょ・・・」




でも、私の身体が倒れる事はなかった。



すぐにとん、と背中が温かさを感じる壁に当たる。



・・・甘い匂い。



白布くん？




白「・・何、どうしたの？辛い？」




心配そうな声。



・・・ごめんね、ちょっと待って、



答えたいけど、歪んだ視界と動かない頭が邪魔をする。



辛い・・・




私は何も答えられなかった。



だけど、そんな私を白布くんは黙って支えてくれていた。







しばらくして、やっと晴れた視界。



私の手から落ちたグラスは、



後ろから伸びている手によってしっかりと握られている。



そしてその手は、白布くんの手。




『あり、がと。白布くん。』



私は彼の腕を軽く掴み、そう言った。



白「いや、いいけど・・大丈夫？どうした？」



相変わらず心配そうな声。


それと耳元だから、くすぐったい。


・・・恥ずかしくなってきた。



『少し、ふらっときただけ・・大丈夫だよ。』



足に力を込めて、立とうとする。



白「ちょ、大丈夫なわけ・・？」


『う、ん。』



・・・・・、


・・・っ、大丈夫じゃなかった。


また視界が白くなってくる。


また後ろに倒れそうになった時、



白「ばか・・・」



硬くて暖かい腕に、


今度はしっかりと抱きとめられた。



『っ、』


白「何強がってんの？」



それからしばらく抱きしめられていると、


視界は元通りになってくる。


よかった・・・、



『白布くん・・ありがとう。もう、大丈夫。』



白布くんの腕の中から出ようとした。


・・・けど、



白「はあ？どうせさっきと同じになるだろ。」



白布くんはそう言って、離してくれない。



『・・・も、もう本当に大丈夫だよ。』


白「完全に治ってるわけないじゃん。」



っ、・・・


でも、だってこの体勢・・・



『おねがい、離してください・・・』


白「・・・そんなに嫌？」


『っ、・・・そうじゃ、なくて・・』



頭と視界は大丈夫でも・・



白「じゃあなんなの？」


『っ、ん・・』


白「！？」



耳が・・！


ぜんっぜん大丈夫じゃないの！


・・・白布くんが話す度くすぐったくて・・、



白「え、何？今度は何？」


『・・・、白布くん、おねがいだから耳元で話さないで・・』


白「は？なんで？」


『耳・・くすぐったいの・・・』


白「は・・・？」

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