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沙友里と一緒に帰ろうとしたら
『送ってくから少し待ってろ』って櫻井に言われて。
言われるがまま、一階で櫻井を待つ。
翔「…お待たせ。ってあれ、サリーちゃんは？」
「用事があるから先に帰るって」
翔「そっか。なんか気を遣わせちゃったかな…」
眉を下げて、困ったように笑う。
…送ってく、だなんて私に言ってくれるのは
帰る方向が同じだから？
櫻井が何を思ってこんなことをするのか気になるけど、
勇気がなくて聞けないや…___________
翔「夏休み始まったら、みんなで海とか花火大会行きてぇな」
「いいね。あとお祭りとかBBQも」
翔「そうだな。Aの浴衣姿見てみたい」
ルミエールを出て、すっかり暗くなった夜道を二人並んで歩く。
こういうときにさりげなく車道側を歩いてくれるのが、櫻井の優しいところ。
翔「俺らも、もう3年かぁ…。来年の今頃は就活とか卒論でひーひー言ってんだろうな(笑)」
「そうだね。みんなで遊べる夏は、今年で最後になるかもね…」
自分でそう言って、すごく寂しくなった。
暗い夜空に浮かぶ三日月が、ぽっかりと欠けた私の心を表してるみたいに見える。
２ヶ月近くある、長い長い大学の夏休み。
１年のときから、私や櫻井を含めた仲の良い同期生５、６人で海に行ったり、BBQをやるのが恒例だった。
それも今年で、最後…__________
翔「終わらなければいいのにな、夏」
「…うん」
翔「楽しい思い出、いっぱいつくろーぜ」
「…うん」
翔「そんなしょげた顔すんなって(笑)今は今、未来は未来…だろ」
ぽん、と私の頭に手を置いて。
長い指が優しく優しく髪を撫でる。
…大丈夫だよって。
そう言われてるような気がした。
翔「…つーか大丈夫なの？親父さんに黙って勝手にバイトなんかして」
「大丈夫よ。…元々、大学の四年間は自由にさせるって約束だし」
翔「…そっか。ならいいけど」
「…………。」
櫻井は、私の家の面倒くさい事情を知っている数少ない友人のうちの一人だ。
私の父は、ソフトウェアなどを作る世界的に有名なIT系企業の社長で。
名門女子大に進学して、成人式の写真でお見合いをして、卒業後は花嫁修業に励むこと。
それが、一人娘の私に対する、古風で頑固な父の望みだった。
…まあ、そんな言いつけは一つも守ることなく、ここまで来てしまったわけだけれども。
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作者名：りま | 作成日時：2017年8月9日 2時
