◆０８◆ ページ8
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「っちょっと待って、櫻井くんっ…！」
パタパタと慌てて俺を追いかけてくる彼女。
一応立ち止まって、返事をする。
「何ですか？」
「その服……」
「……欲しいんでしょう？買ってあげますよ」
Aさんは俺の言葉に驚いたように目を見開いて、ふるふると首を左右に振った。
「今日は見に来ただけだから、いいの…」
そう言うと、俺が抱えていた服をバッと全部取り上げて。
それらを元あった場所へと一つ一つ戻してゆく。
んだよ…
せっかく今月の給料全部なくなる覚悟で言ったのに。
謙虚なフリ…しちゃってさ。
どうせここに俺を連れてきたのは、
都合のいい荷物持ちとお財布代わりにするためなんだろ？
「これください」
「ぁ、ちょっと…櫻井くん！？」
Aさんが服を戻している隙に、適当に目に入ったワンピースを一つ手に取ってレジへ持っていった。
キレイめで大人っぽい、赤いレースのワンピース。
Aさんの白い肌によく映えそう。
「もうっ…。ほんとにいいって…言ったのに」
「だって。ああいうお店で何にも買わずに帰るなんて…体裁悪いじゃないですか」
「………そうね。ありがとう」
店を出て、もうすっかり暗くなった夜道を駅まで二人で歩く。
空にぽっかりと浮かんだまあるい満月の光が、Aさんの綺麗な横顔を青白く浮かび上がらせる。
「………櫻井くんは、誤解してるわ」
「え…？」
「さっき。わたしに男の気持ちを弄んでるって…言ったじゃない」
「ああ。言いましたね」
「二宮くんに何言われたか知らないけど…。私、そんなつもりじゃないから」
「…………」
きっぱりと強くそう言い切った彼女は、とても嘘を吐いてるようには見えなくて。
じゃあやっぱり…
二宮さんが言ってたことは、俺にAさんを諦めさせるための嘘ってこと？
「私が今までしてきたことは、バカ男に対するちょっとした制裁に過ぎないのよ」
「制裁…？」
言っている意味が分からなくて、思わずAさんの顔をじっと見つめる。
「そうよ？可愛いだけで女を選ぶと痛い目見るってこと、教えてあげてるの」
「何ですかそれ…(笑)」
「ふふ。…私はね？正直もう愛とか恋とか、うんざりなのよ」
「…どうして？」
「それは…。私、今まであんまり良い恋愛、してこなかったからさ」
あはって自嘲気味に笑った彼女。
昔を思い出すように、どこか遠くをぼんやりと見つめる。
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作者名：りま | 作成日時：2016年8月22日 7時
