◆０５◆ ページ5
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「今夜、俺と一杯……どうですか？」
「ええ？どうしたのよいきなり(笑)」
「仕事のことで、相談に乗ってもらいたくて…」
嘘だ。
相談なんて…ただの口実。
今日こそ。今日こそは。
この溜まりに溜まった想いを伝えたくて。
でもストレートに誘ったんじゃ、Aさんに断られるのは目に見えてるから…。
それらしい理由を取ってつけてみた。
「仕事の相談なら、私より部長とかの方がいいんじゃないの…？」
「……俺は、Aさんがいいんです。
Aさんに……聞いてもらいたいんです」
これまで苗字でしか呼ぶことが出来なかったけど。
今は会社の人たちの目もないから思い切って名前呼びとかしてみた。
…もうこうなったら。
押してダメならもっと押せ！だ。
「………んー」
唇に人差し指を当てながら、しばらく考えるように地面に視線を落として。
答えを渋るAさん。
伏せた長い睫毛がふるふると震えていて、困ってんのが分かる。可愛い。
…やっぱり今日も、ダメか？
また断られちゃうのか？俺。
不安と焦りが入り混じりながらも、祈るような思いでじ…っとAさんを見上げる。
ぎゅっと強く拳を握りしめると、手のひらに爪が食い込んで痛い。
「……そうね。いいわ」
「っえ！ほ…本当ですか！？」
どうやらAさんは、俺のあまりのしつこさに根負けしたようで。
ふぅ…っと一つ息を吐くと、うんって小さく頷いた。
……まじで。
まじで！？
うわぁ。誘うこと十数回目にして、ようやくこのときがきたか…。
「でも…_______」
「でも？」
「相談とかはまた今度にして…
今から私と、デートしない？」
「………っデ、デート！？」
「そう。……嫌？」
ちらりと俺を横目で見て、小首を傾げて可愛らしく問いかける。
…まさか。嫌なわけない。
食事を飛び越えて、想い焦がれ続けたAさんとデートできるだなんて。夢みたいな話だ。
「いえ。デートでも何でも…付き合いますよ」
ゴクリと唾を飲み込んで。
動揺で震える自分の声を悟られないようにやっとの思いでそう言うと。
口元に微笑を浮かべたAさんは、一言、着いてきて…とだけ言って。くるりと俺に背を向けた。
夏の終わりの生ぬるい夜風が、火照った頬をかすめてゆく。
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作者名：りま | 作成日時：2016年8月22日 7時
