◆０４◆ ページ4
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「櫻井くんにはあって俺にはないわけ〜？」
俺のデスクの缶コーヒーをちらっと見て、二宮さんが不満そうに唇を尖らせる。
「だって…。二宮くんはさっき自分でレモンティー買ってたじゃない」
「あーあ。そうやって差別するのね」
「仕方ないでしょ。櫻井くんは私の可愛い後輩なんだから(笑)」
ねっ？と同意を求めるように顔を覗き込まれて。
悪戯っぽく笑うその瞳に思わず顔が熱くなる。
ドクドクドク。
心臓が早鐘のように脈打つ。
近づいた一瞬だけ、ふわりと香ったAさんの甘いラベンダーみたいな香水の匂いに、頭がくらくらとした。
「あのっ、ありがとうございます…」
「どーいたしまして」
「つーかお前何しにきたんだよ」
「あぁ。ケータイ、忘れちゃって…。取りに戻って来たの(笑)」
不審げに問いかけた二宮さんにそう言って。
自分のデスクに置き忘れたらしいスマホを手に取ってバックに入れると。
じゃあね…って、片手を上げたAさんはもう俺には目もくれずにまた来た道を戻ってゆく。
シン…とまたオフィスには静寂が戻る。
Aさんにもらった缶コーヒーを見つめて、思わずふふっと笑みが零れ落ちた。
…ダメだ俺。
もうこうなったら仕事になんて集中出来ねぇ。
そう思ってノートパソコンの電源を落とすと、鞄と大事な大事な缶コーヒーを持って立ち上がった。
残りの作業はあと少しだから、明日の朝早く来てやればいい。
「ぁ、僕も今日はお先に失礼します…っ」
「あぁ。お疲れー」
二宮さんや、残っている他の社員に頭を下げてそそくさとオフィスを出る。
急げばまだ…間に合うか？
エレベーターを待つ時間すら惜しくて、普段使わない階段を慌てて駆け下りる。
ロビーに出て辺りをきょろきょろすると、ちょうど会社を出て横断歩道を渡ろうとしてるAさんがガラス窓越しに見えた。
「一ノ瀬さん…っ!」
華奢なその背中を慌てて追いかけて、呼び止めると。
コツン、とヒールの音が止まって。
長い栗色の髪を揺らして彼女がゆっくりと振り返る。
「なあに？櫻井くん」
ふふっと唇だけで笑って、上目遣いで俺に問いかける。
……ほんと、ずりぃよなぁ。
どうせそれも、計算なんだろ？
わざとやってるって分かってんのに、可愛くて可愛くて。
好きで…仕方なくて。
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作者名：りま | 作成日時：2016年8月22日 7時
