PARACAGE 9th【ars】 (ページ9)

今日:27 hit、昨日:31 hit、合計:1,204,672 hit

289.ズルい男とズルい女。ページ9

「...雅紀くんはズルいよ...」

その胸を軽く押すと、彼は簡単に身体を離した。

「...ごめん」
「そのゴメンは何に対してのゴメン？」
「え...全部...」
「ズルい」
「ごめ...あ、えっと...」

シドロモドロになってる雅紀くんを見てると、この数日胸の底に溜まってたドロドロしてた物が流れて行ったような気がした。
雅紀くんが私の濡れてる頬を親指で拭きながら、ちょっと微笑んですぐに真面目な表情。

「俺、あの人とお別れしたよ」
「...え？」
「あっちは『今更どうした？』って呆れてたけど、まぁそりゃそうなんだけどね」
「......」
「久し振りに顔合わせた時もね、懐かしいなぁ...とは思ったんだけど...」

彼の口角が優しく上がる。

「俺の好きな人、やっぱり今はもうこの人じゃないんだなって」

ハッキリ気付けた、って雅紀くんは目元を緩めた。

「日本に帰ったら、ちゃんと言おうって決めてた」
「......」
「Aちゃん」

頬に触れてる親指がスルスルと頬骨の上を滑る。

「好きだよ」

こんなの...
せっかく拭いて貰ったのに、また頬が濡れてしまう。

「もう全然迷ってない」
「......っ」
「好きってどんな気持ちだったか思い出したし、間違ってなかった」

嗚咽が漏れそうで、慌てて口を自分の手で押さえた。
なのにその手は雅紀くんに、いとも簡単に外されてしまった。

「Aちゃんは？」
「......え...？」
「Aちゃんの気持ちも教えて欲しい」
「......」
「俺は片想い？迷惑なら俺は諦めなきゃ」
「...そんな......」

そんな馬鹿な。
これが片想いだなんて、雅紀くんは本気で思ってる訳無い。

「......ズルい...」
「誰が？」
「...雅紀くん」
「うそだ、Aちゃんがでしょ」
「......」
「聴かせて？」
「......」
「顔が見えてたら恥ずかしい？」

そう言うと、雅紀くんはもう一度私を抱き締める。
雅紀くんの胸にギュウっと顔を付けたら、大好きな人の匂いがした。
その胸からはトクトクトクと早打ちしてる心臓の音が聴こえて来て、愛おしさで眩暈すらする。

「......好き」

声になってたのか、なってなかったのか、自分でもよく分からなかったけど

あんなにずっと言えなかった言葉なのに、驚く程スルリと喉を通って出て行った。

「ん？よく聴こえない」
「......」
「もっかい、言って？」
「...やだ」

「ズルいな」って言った彼に顔を覗き込まれ

次の瞬間には、お互いの唇が触れていた。