PARACAGE 9th【ars】 (ページ8)

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288.欠陥品の終わり。ページ8

「俺、欠陥品になってたの。モデルになってからずっと。頑張るのは仕事だけだった」
「......」
「俺にとって女の子は道具。過去を忘れる為の、一時的な玩具」
「......」
「最低だけどずっとそうだったし、周りも俺をそーゆー奴だとしか見てなかったし」

出逢った頃の雅紀くんを思い出す。
帰って来ない日が多くて、帰って来たと思ったらお酒の匂い。
平気で女の子を連れ込んで、その時だけ楽しければそれで良いって雰囲気だった彼の笑顔。

「だから、分かんなくなってた」
「......」
「『好き』って、どんな感じだっけ...」

雅紀くんが、ゆっくり私と目を合わせる。

「これって、『好き』ってやつだっけ...」

その声は、夜の海で聞いた声と同じ。
独り言のような声。

「でも、一緒に居る時間増えて二人で色んなコトして、...ヤキモチとか妬いて...あぁこれやっぱ好きってやつだよね？って思ってたの」
「......」
「だけどどっかで引っ掛かってた。俺、ホントに全部忘れられてんの？って。Aちゃんを代わりにしてるだけ？って...」

『代わり』って言葉に、胸が潰れそうだ。
なのに「それでも良いから」って言い出しそうな唇をギュっと噛む。

「だったら俺、最低なまんまだな...って思ってた」

何か言いたいのに、何も言えない。

「でもね、事務所であの人との仕事が入ったって聞いた時、不思議と落ち着いてて...何か肩の荷が下りた感じがして」
「...え...？」
「あぁ、ちゃんとお別れできるなぁ...って思ったの」
「......お別れ...」
「あの人と俺の終わりって、凄く曖昧だったから」

ベランダで教えてくれた二人の最後は、空港で素直になれなかった雅紀くんと『今までありがと』とロンドンへ旅立った彼女。

「今更だけど、俺はあの人とキッチリ決別する為にロンドンに行った」
「......」
「ちょっとでも気持ちが揺れそうだったら、この仕事は断ったと思う」
「......雅紀くん...」
「だから...Aちゃんには隠してた。しなくても良い心配はさせたくなくって」

喉の奥が萎んで行く。
目の奥は、凄く熱い。

「結局、傷付けちゃったけど...」
「......」
「...本当にごめんね」

我慢してた涙が、瞬きをした拍子に零れた。

「そっち、行っても良い？」

私が応えるより早く、彼は隣に座って

「泣かせてごめん」

私の目の下を、指で拭う。

「でも、嫌いになんないで...」

私を抱き締めた雅紀くんが、耳元で小さくあの声を落とす。

...ホントに、ズルい人。