PARACAGE 9th【ars】 (ページ39)

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319.塗る。←2.1・LAST ページ39

眼鏡を掛けて朝ご飯を食べてる潤くんの姿が無いコトにやっと慣れ始めて、雅紀くんがモデルを辞めて前の職場に復帰して少し経った頃。

仕事で帰って来たら、智くんが私の部屋の前に座り込んでた。
正しく言うと、私の部屋の前にある紫色のドアの前で。

「ただいま、智くん」
「おかえり」

隣にしゃがんだ私をチラっと見た智くんは、またドアの方を見る。
その手には刷毛。紫色のドアを、白いペンキでペタペタと塗り直してる。

「もし次に入ってくる子が居たら、その子の好きな色に塗ってあげたいからね」
「...うん、そうだね」

毎日見ていた、紫色のドア。
時々、ドアの向こうからは映画を観てる音声が小さく聴こえて来てた。

「それに、ちょっと寂しいし」
「え？」
「この色のドアの向こうには、まだ潤くんが居るんじゃないかなぁ？って思っちゃうから。おれ」
「...うん、そうだね」

ペタペタ、智くんはドアを塗る。
そこはどんどん白くなっていく。

「そう言えば、Aちゃん達はもう家決めたの？」
「うん、少しづつ探してるよ」
「そっか。じゃあ、近い内にもう二つドア白く塗らなきゃいけないのかぁ...寂しいな」

智くんが塗り終わった、元紫色のドアを見上げた。
さすが、ムラが全然無い。

「智くん、その時は私が自分でドア塗っても良い？」
「え？何で？」
「ちゃんとこの家にもお礼って言うか...感謝の気持ちを込めて塗りたいなぁって思って」
「うん、良いね。すごく良いと思う」

アハッと笑った智くんが、コテンと私に寄り掛かって来た。あったかい。

「せっかく妹が出来たのに、出て行っちゃうのかぁ」
「私もお兄ちゃんがいっぱい出来て楽しかった」
「可愛い妹だったなぁ」
「お世辞でも嬉しいよ。妹は感激です」

私の言葉にクスクス笑う彼の肩が揺れる。
揺れにつられて、私も笑う。

「あー、智くん塗り終わったの？」
「翔くん、おかえり」

廊下をこっちに歩きながら「ただいま」と手を軽く上げた翔さんに私も「おかえりなさい」と声を掛ける。

「へぇ。綺麗に白くなったね！」

翔さんが腕組みをしてドアを眺め、感心したようにウンウンと頷いた。

「で、貴方達はどうしてこんな所に座り込んでるの？」

そして、私の隣にしゃがんだ。

「せっかく妹が出来たのに、家を出て行っちゃうのは寂しいなって話をしてたの」
「あー...そうだね。僕も寂しいです」

翔さんが眉をちょっと下げて、優しく微笑んだ。