PARACAGE 9th【ars】 (ページ38)

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318.見上げた窓。ページ38

「ごめんな、A」

突然潤くんに謝られた。

「俺、告った事は言ってないから安心しろって言ったのに結局言っちゃったわ」

彼が口の端を上げる。

「でも俺、あん時も『まだ言ってない』って言った筈なんだよなー」
「...あ」
「だから、嘘じゃないよな？」

少し意地悪に笑う。
一見キツそうにも見える潤くんが、笑うと一気に柔らかくなる。
初めて会った頃、この人は絶対に笑った方が良いのに…って思ってた。
もう何度も何度も、彼の笑顔を見て来た。
やっぱり潤くんは笑ってる方が良い。

一人玄関の方を向いてた潤くんが「あ」と口を開いた。
振り返ると、しっかり作務衣に着替えた翔さんが「おはよ」と小首を傾げてた。

「翔ちゃん、潤ちゃんが勝手に出て行っちゃいそうだったよ」
「だろーなぁ、この状況は」

潤くんが、ちょっと気まずそう。

「翔さん、もう寺行くの？」

気まずそうなまま訊いた潤くんに翔さんは「まだ早いけど、お前らが朝早いのにうるさいから注意しに来た」って答えてる。

「御近所迷惑だろ？もっと周りの事を考えなさい」

「ごめんなさい...」と3人で頭を下げる。

「でもま、僕も潤に挨拶しておきたかったし」
「.....」
「潤には感謝しか無いよ。ありがとう」
「俺も翔さんには感謝してるよ」

「俺そんなの言って貰ってなーい！」って雅紀くんがずっこけてる。

「お盆は無理だけど、近い内に沖縄行くから潤のとこ泊めてよ」
「分かった、また連絡して？」

きっとこれは社交辞令じゃない。
翔さんは必ず沖縄に行く。
もう今日の夜には、自分のスケジュールを確認しながら航空券や何なら美味しい料理屋さんとかまでネットで調べるはずだ。

「マジでそろそろ行かなきゃ」

腕時計を見て、潤くんが呟く。

「いってらっしゃい」

翔さんが言うから、私と雅紀くんもバイバイじゃなくて「いってらっしゃい！」って手を振った。

門扉を出て、潤くんを見送ってたら

「潤くーん」
「おじゅーん」

上から声がして見上げると、二階の端部屋の窓から智くんとニノくんが顔を出してる。
あれは位置的に、智くんの部屋だ。

「潤くん、いってらっしゃーい」
「いってらっしゃーい。ちんすこう！」
「フハハッ！意味わかんね」

笑った二人が、手を振ってる。

その窓を見上げて「うるせー」って笑った後、俯き首を軽く振った潤くんの後ろ姿を、私きっと忘れない。